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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2008/08/22

チエの話 (ちえのわ ) (その22)

○次回 第3回口頭弁論
 2008年10月20日(月)13:30〜16:30 福岡高裁501号法廷
 門前集会 13:00〜 福岡高裁前

○第4回口頭弁論
*原田正純証人に対する被控訴人(被告)側反対尋問
 2008年11月17日(月)15:00〜17:00 福岡高裁501号法廷
 門前集会:14:30〜 福岡高裁前
 裁判終了後にも報告集会の予定もあります。

○原田正純証人尋問  鈴村 多賀志

 去る7月28日に原田正純氏(熊本学園大学)に対する控訴人(原告)側の証人尋問が行われました。質問は主に山口弁護士が担当しました。

*水俣病は環境汚染を通じた食中毒
 まず原田証人の略歴・業績に関した質問に答えて、長年にわたって水俣病研究の第一線で活動をしてきたことが紹介されました。原田証人には水俣病に関する数多くの著書がありますが、「裁かれるのは誰か(1995世織書房)」では「患者、家族の様子を聞いていて、カルテに書ききれない部分がある。しかし、そこが非常に大事な部分であるので残したいと思った」と、その執筆動機を述べました。
 「水俣病を一言で言うと」という山口弁護士の無理な質問には少し困ったようではありましたが、「水俣病は環境汚染を通じて食物連鎖を経た中毒事件であり、人類史上初めて経験した事件である」「被害者は日常的な生活をしていただけなのに一方的に毒を食べさせられた。交通事故などとは異なり被害者にはなんの責任はない」「人造病であり、起こすことを止められた病気である」と答えました。
 水俣病を診断する時に注意することとしては、「患者の訴えをきちんと聞くと言うこと。慢性になると患者が自覚しない障害がある。周りの人は分かるが本人が自覚をしていない。生活の場で見るようにしたい」。具体例として「胎児性水俣病患者の母親。1960年頃の胎児性の母親は自分では感覚障害を訴えていなかった。(検査で)針を刺してみても感じない。そこで初めて自覚した」と患者に対して注意深く対応しなければならないことを強調しました。

*チエさんは水俣病
 この尋問に先立って提出した原田氏意見書についての質問には、「一般に生前の医学資料のない人を診断するのは無謀だが、水俣病は環境汚染による中毒。(同じ生活をしていた)家族や地域の人々の症状を診ることによって、状況証拠を集めることによって診断が可能な特殊な病気である」ことから「チエさんの残された資料の裏付けとして家族の症状を診た」と証言しました。その結果、家族3人とも水俣病と診断され、同じ物を食べていたチエさんが水俣病であったと診断できるとしました。
 一審でその評価が否定されたS診断書について、「中身は実質的には水俣病と書いてある」「感覚障害はそれぞれの医師が証明するもの、これは診断である」「残された資料は、それ以上でもそれ以下でもない」と一審判決の判断を批判しました。

*認定審査会の実態
 原田証人は1974年11月から1982年10月まで認定審査会の委員(74/11〜76/10は専門委員)でした。この観点からの尋問もなされました。
 昭和52年認定基準については「内部では判断基準という話はなかった、中にいる我々も知らなかった。それをきっかけに棄却者が増えたわけでもない。通知が出て審査方法が変わったわけでもない。(昭和52年認定条件どころか)昭和46年通知の前からも、一貫して厳しい基準であった」「行政処分なのに医学論議をするのではかどらず、大量の保留者を出した」と通知・通達に関係なく厳しい審査がなされていたと証言しました。また、未検診死亡者の病院調査に対する認識については、「情報が全くなかった。審査会が主導権を取るべきだったが、審査会にも権限はなかった」と述べました。
 熊本県の対応について「第1に初期調査をしていないのが問題。第2に申請者が増えてきた時に、検診内容を簡略化すればよかったし、できたはず」「(申請者は)審査会や県にとっては、何百人だが、本人や家族にとっては1人。もう少し被害者にそった工夫をすべきだった」と行政の責任を指摘しました。

 最後に溝口裁判について、「これは医学論争ではない。(原告は)母親を認定申請してから何年も放置されていた」「何らかの形で水銀の影響があると考えるべきなのに、家族についても診断もつかない。そんなのは医療ではない、水俣病かどうか以前の問題である」「(長期間放置された)家族の思いを教訓としなければチエさんの死が無駄になる」との発言をして、傍聴席からは拍手も起こりました。
 被控訴人(熊本県)側の反対尋問は、第3回口頭弁論(10/20)後の11月17日となりました。

*今後の取り組みに向けて
 控訴審は、お互いの主張が示され争点が整理される前に証人尋問に入るという、極めて異例の展開で始まりました。
 原田証人も発言したように、この裁判は元々未検診死亡者に対する熊本県の放置・切り捨て施策を追及し、チエさんの医学資料を散逸させた責任を問うものです。しかし私たちは“水俣病ではない人を手続上の瑕疵(間違い)があったから認定せよと主張している訳ではない”ことを、まず裁判官に理解させなければ一審判決を覆すことはできません。まともな審査運営がなされず、生前に認定されるべき人が21年間も放置され認定棄却されたことを問題としているのです。東京事務局では、県の申請者放置・切り捨て施策を追及する書面も準備中です。
 10月以降、被控訴人側がどんな主張・反論をしてくるのかは分かりませんが、私たちは一審段階では何が不十分だったのか徹底的に分析して、課題を一つ一つクリアして行きます。
 今後も多大なご支援ご協力をお願いします。

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