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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2009/03/29

チエの話 (ちえのわ ) (その24)

○次回 第6回口頭弁論(いつもと曜日と法廷が異なります)
 2009年6月4日(木)15:00〜 福岡高裁505号法廷
 門前集会14:30〜 福岡高裁前(法廷後の報告集会を予定中)

○第5回口頭弁論報告 鈴村多賀志

*釈明処分の申立
 口頭弁論に先立って私たちは3本の準備書面と5人の証人申請・再申請を行いました。この中で控訴審での新たな取り組みとして、行政事件訴訟法第23条に基づく釈明処分の申立を行いました。(第47準備書面)
 溝口訴訟は提訴から7年以上を経ていますが、未だに熊本県(被控訴人)は未検診死亡者をどのように扱い、審査・処分をしてきたのか、具体的にチエさんをどのように扱っていた(病院調査など)のか、が一切明らかにされていません。再三の求釈明にも県は応えず、言わば審理未了状態のまま地裁判決が言い渡されてしまいました。控訴審では県の黙りを許さず、未検診死亡者に対する県の処分実態・方針を明らかにして、チエさんを死亡後17年間も放置して、かつ水俣病罹患を証明する医学資料を散逸させてしまったことに対する県の責任を追及します。
 同時に提出した第48準備書面では、チッソ水俣病関西訴訟で明らかにされた事実に基づき、現行の認定基準(52年判断条件)が医学的・法的に崩壊していること、四肢末梢の感覚障害は水俣病に特異的な症状であること、そして残された資料からチエさんを水俣病と判断することが妥当であることを主張しました。また国・県が水俣病の責任病巣について、末梢神経障害と中枢神経障害を意図的に使い分けてきたことについても、第3次訴訟の被告最終準備書面を具体的に示して論難しています。
 第49準備書面では、県はチエさんの認定申請中には病院調査等の医学資料の収集を放棄し、提訴後には再三の求釈明に応えず、チエさんの水俣病罹患を証明しようとする控訴人(原告)の活動を妨害している(証明妨害)ことを述べ、諫早湾潮受堤防撤去訴訟の佐賀地裁判決を引用しながら、控訴人側の証明程度の軽減が図られるべきことを主張しています。

*二宮証人に関心を示す裁判官
 釈明要求と証人尋問について、県側は従前の如くおざなりの反対意見しか述べませんでした。しかし裁判官が二宮正医師の証人尋問に対して関心を示しました。裁判長自ら二宮証人に聞きたい事項を具体的に挙げ、尋問内容を整理するよう指示がありました。主にチエさんの症状の鑑別(他の疾病によるものかどうか)に関する内容で、地裁判決とは異なり、S診断書やチエさんの曝露歴をそれなりに評価しようとする姿勢の表れと見ることができます。控訴人側には、また新しい宿題が課せられることになりした。
 次回口頭弁論(6/4)で二宮証人も含めた証人尋問の採否が決定します。

*「さらし者」批判に怯まず
 法廷終了後、ふくふくプラザ(福岡市市民福祉プラザ)にて報告集会を開きました。
 東京事務局では、さらに2本の準備書面(衞藤光明批判、未検診死亡者審査のあり方)の作成が進められていることの報告をしました。東弁護士からは、野村瞭証人(1977/8〜1980/7 熊本県首席医療審議員)について、「未検診死亡者の病院調査を進めていた人で、チエさん(77年死亡)にも直接関係している証人であることをもっと認識すべき」との意見がありました。
 また溝口秋生さんから裁判を続けていることに対して「母親をさらしもんにして」との批判が浴びせられていることが伝えられました。これに対して、緒方正実さんは「さらし者を自分で引き受けて10年間闘ったが、決して後悔はしていない。家族にも累がおよぶとさえ言われて、何が正しいのか、間違っているのかとことん考えさせれられた。人々の評価は行政の言うことに左右される、世の中とはそんなもの。惑わされてはいけない。今は厳しいだろうとは思うが、チエさんと同じような多くの人の代表という思いを続けて欲しい。」と励ましました。
 患者が声をあげ闘うことの厳しさと意義が改めて確認された集会となりました。


○チッソと行政を救済する与党法案

 3月13日自民・公明の与党は「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案」なるものを衆院に提出しました。
 40条の条文からなるこの法案ですが、その大半(第8〜35条)はチッソの分社化に関する規定です。チッソの事業部門を子会社として切り離し、チッソ本体は清算事業化、その後補償給付を行う「支給法人」を立ち上げる。その為に債権者の権利を制限し、子会社を切り離す際に生じる法人税や登録免許税、不動産取得税等について特例を設けています。
 一方、肝心の水俣病患者救済に関しては僅か1章節(第3章・第5〜7条)のみです。この間マスコミ等でさんざん宣伝してきた一時金や救済内容については「一時金の支給に関する部分については、関係事業者(チッソ)の同意を得るものとする」「救済措置を実施すること」とのみ規定するだけで、具体的な内容は一切盛り込まない上に、同じ第3章の中で3年を目途に「補償法(公健法)に基づく水俣病に係る新規認定等を終了すること」(第6条)を明記し、第7条では水俣病の地域と疾病の指定を解除する、と定めています。また、環境省による認定審査を3年期限で復活させましたが、不当に処分された場合に対する審査請求に関して、審査請求人が参考人による陳述・鑑定を申し立てる権利を奪っています。(附則)
 つまり3年後には加害企業チッソとメチル水銀曝露地区と救済を求める人々(=水俣病問題そのもの)は無いことにしてしまおうというものです。足尾鉱毒事件で谷中村を滅亡させた手法が、100年を経て復活しようとしています。
 前文ではチッソ水俣病関西訴訟のことを「チッソ水俣病」を落として「関西訴訟」と呼び、この訴訟で水俣病の病像が争われて52年判断条件が否定され、水俣病に対する県・国の不作為が断罪されたことを意識的に欠落させています。
 メチル水銀による汚染(魚貝類の流通も含めて)はどこまで広がっているのか、いつまで続いていたのか、メチル水銀曝露があってどんな症状が発生したら水俣病と判断するのか、水俣病の実態調査をしないままの地域指定解除は潜在患者の切り捨てです。潜在患者とは軽症の患者ではありません。水俣病に対する誹謗や差別を恐れ、または正しい情報を得られないために今は声をあげられない患者です。本人申請主義と52年判断条件が、今日の事態を招いた元凶なのです。この法案はそのことを隠蔽しようとしています。
 蒲島郁夫熊本県知事は、前文に「水俣病被害者」と位置づけられていると評価していますが、「水俣病被害者」とは、チッソの垂れ流したメチル水銀で汚染された魚貝類を食べて健康被害を生じている人々=水俣病患者であることが明記されなければ、何の解決にもなりません。
 3月26日には認定患者、1995年政治決着受入患者団体も含めた11団体による反対声明発表と知事交渉がされました。私たちも共に声をあげなければいけません。
(文責 鈴村)

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