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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2009/03/29

チエの話 (ちえのわ ) (その25)

○次回 第7回口頭弁論・二宮正証人・控訴人側主尋問
 2009年10月5日(月)13:30〜16:00 福岡高裁
○次々回 第8回口頭弁論・二宮正証人・被控訴人側反対尋問
 2010年1月18日(月)13:30〜16:00 福岡高裁
*両日とも
 門前集会13:00〜 福岡高裁前 法廷後の報告集会も予定

○第6回口頭弁論報告   鈴村多賀志

*争点はチエさんの四肢の感覚障害の評価
 6月4日15時から行われた弁論において、二宮正医師証人申請が採用されました。この採用について、裁判長から「裁判所の心証としては、チエさんには感覚障害があるのではないかという暫定的な判断をしている」との発言がありました。ようやく第1審判決(チエさんの感覚障害の存在自体を認めなかった)から一歩進むことができました。
 ところが既に二宮証人に対する尋問事項書は提出していたのですが、熊本県(被控訴人)側が、より詳しい尋問事項書を事前に出すように求めてきました。すかさず山口弁護士が「詳しい尋問内容を事前に知りたいと言うことは、同日に反対尋問もやってもらえるのか」と切り返しましたが、熊本県はこれには応じず、準備に時間がかかるとして、反対尋問期日も来年にまで持ち込ませました。
 既に具体的な内容の質問事項書を提出しているのにもかかわらず、より詳しい尋問事項書を求めてきたことについて、山口弁護士は「嫌がらせ、当日の尋問進行にタガをはめるつもりではないか」と分析しましたが、これによって当面の争点は、チエさんの感覚障害が水俣病によるものかどうかが争われることになります。
 同時に、熊本県の未検診死亡者の放置責任を追及する課題も進めています。具体的には釈明処分の申立(第47準備書面)や、野村瞭氏の陳述書、証人申請書を提出しました。当時の県の未検診死亡者の取扱いに対する方針や認定審査会の実態を明らかにするよう求めていきます。

*控訴人側第50準備書面
・未検診申請者に対する審査のあり方を主張

 まずチエさんの病院調査が県によって意図的に放置され、医学資料が散逸させられたことを改めて指摘し、審査にかかる前提条件を奪った上で不当な52年判断条件に当てはめることの不合理を主張しました。
 そしてチエさんのような未検診死亡者の審査のあり方として、原爆症訴訟判決(東京地裁・高裁)が参考となることを挙げました。原爆症も被曝から60年以上も経ていながら未だに詳しい病像が明らかにされていない現状ですが、このような場合には、疫学的な知見を踏まえて、被害者の被曝状況やその後の生活状況等を総合的に考慮して、放射線と疾病との因果関係を検討すべきであると判示しています。
 特に水俣病の場合は、家族・地域がおしなべて有機水銀に汚染された食中毒事件ですから、同じ食生活をしていた家族や地域の状況証拠から、チエさんの病状を推察する原田正純氏の手法(環境病跡学)も妥当であることを主張しました。

*被控訴第2準備書面
・「定説的な医学的知見」?

 この書面から「定説的な医学的知見」という言葉を繰り返すようになりました。これまでは単に「医学的知見」と言ってきました。何が「定説的」なのか具体的には述べていませんが、行政処分の「連続性、統一性」を強調したいようです。しかしことは病気の判断なのですから、いつまでも誤った「処分当時の定説的な医学的知見」で判断され続けられてはたまりません。
 ちなみに県が今回提出した乙143号証(同じ物が甲174号証)「佐々委員会報告」には、「水俣病の定義は、魚貝類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起る神経系疾患とする」とし、有機水銀中毒症としないのは「公害病」であることを意識するためであることが明記されています。病像では初期症状として「四肢末端、口囲のしびれ感にはじまり」と報告されています。もちろん初期の段階では(S52年判断条件が要求するような複数の症状が発病しないと)水俣病と判断しないなどという議論はしていません。症状の軽重に左右されてはならないことは、S46年通知でも明言されています。

・二重基準の積極的容認と新たなニセ患者発言
 熊本県曰く、損害賠償請求では「加害者の違法・有責な行為によって排出された原因物質に曝露したことによって被害者に健康被害が生じたこと」、水俣病に即して言えば“チッソ・昭電が垂れ流した有機水銀に汚染された魚貝類を食べて健康被害が生じたこと”が立証できれば賠償は認められるが、その健康被害が「定説的な医学的知見」に基づいて水俣病と認められなければ公健法の適用は受けられない。損害賠償請求の「健康被害」の認定には「医学的概念」が取り込まれていない。
 そして、チッソ水俣病関西訴訟高裁判決の判断準拠を「独自の判断準拠」と呼び、「医学的に明らかな誤りないし不適切といわざるを得ない」と主張しています。
 これは、損害賠償と公健法で水俣病について二重基準を容認するだけでなく、公健法の方が狭いのだと言っていることになります。公健法の立法目的「健康被害に係る被害者等の迅速かつ公正な保護」を全く無視した主張です。
 また、第2次訴訟や関西訴訟の勝訴原告に対する表現を変えたニセ患者発言でもあります。

・未検診死亡者は切り捨て
 補償協定との関係を配慮(加害者チッソヘの考慮)する水俣病認定業務の運営をして、被害者患者の補償・名誉回復の権利を奪いながら、「公平性」「客観的」を連呼する。また水俣病の責任病巣についても、患者の主張内容に応じて末梢神経障害と中枢神経障害を意図的に使い分けておきながら、素知らぬ顔をして「連続性、統一性」を口にするのは、患者をバカにしているとしか言いようがありません。
 なにより許せないのは、チエさんの症状の有無の証明について、意図的にその機会を奪っておきながら、「高度の蓋然性」を要求していることです。医師の診断書があり、家族の詳細な証言もあるにもかかわらず、それらは「客観性がない」と認めないというのは、結局、県の指定する検診(「公的検診」と彼らは呼ぶ)結果しか認めないという主張です。
 これでは未検診死亡者は、門前払いです。永遠に認定されません。未検診死亡者については医学資料を集めて総合的に判断すると規定しているS52年判断条件第4項にも反しています。県は「立法趣旨を体現した」と強弁するS52年判断条件さえ、自ら無視しようとしています。

 このような主張は絶対に容認できません。
○双方の準備書面は時期にホームページに掲載予定です。乙143号証の当該部分は、原告一審第35準備書面の94、95ページに記載されています。是非、御覧下さい。

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