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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2010/02/02

チエの話 (ちえのわ ) (その27)

○次回 第9回口頭弁論・裁判長交代に伴う更新意見陳述
 2010年4月26日(月)13:30〜福岡高裁
 門前集会13:00〜 福岡高裁前 法廷後の報告集会も予定

○第8回口頭弁論報告   鈴村多賀志

<判決でキチッと白黒をつける>

 水俣病未認定問題は、2000人以上の原告をかかえる不知火患者会訴訟が和解協議に入り、何回目かの“最終決着”に向かうか?とマスコミの全国版でも報道されるようになっています。
 しかし、私たちは原告・溝口秋生さんの意思に基づき、溝口裁判は最後まで闘うことを再度確認しました。
 これを受けて山口弁護士は弁論の終わりに特に発言を求めて、裁判官と被控訴人(熊本県)に対して、和解ではなく判決を求めることを宣言しました。

<裁判長の交代>

 1月1日付で山口幸雄判事から西謙二判事への裁判長の交替がありました。裁判も終盤になって、しかも前裁判長自ら質問があるとしていた二宮証人の尋問途中での突然の交替には、多少驚かされましたが、何か政治的背景あるようでもなさそうなので、とりあえず一安心です。
 それでも、これまでの審理応答や医学証人の実感を持った証言などを直接聞いてきた裁判長が交代するのは残念なことです。
 私たちは次回口頭弁論を、これまでの審理経過や前提事実、争点を整理して、今後の審理予定を陳述する更新意見陳述とすることを要請しました。これに対して裁判長も積極的に設定することを決定しました。

<二宮証人に対する被控訴人反対尋問>

 1月18日の二宮正医師に対する被控訴人側の反対尋問は、13時半から約2時間半にわって行われました。焦点は「感覚障害」「知覚鈍麻」の検査方法とその評価についてになりました。

*水俣病診断における感覚障害の意味
 最初に二宮証人の検診の技量について、神経疾患患者の検診経験などについて聞いてきました。対して二宮証人は、臨床の現場で常時診察を行っていること、神経内科専門医の指導も受けていること、そして認定審査会カルテに則った神経所見ならば普通の内科医で十分であると、答えました。
 毛髪水銀値と発症との関係(閾値)については、水俣病の場合は、水銀曝露を受けていた20年間のうちの、ある一時のデータしかなく、その人の曝露全体を知るデータが得られていないことが問題であることを証言しました。
 反対尋問の一つの柱は、チッソ水俣病関西訴訟最高裁判決で病像論の基礎となった御所浦、北浦(宮崎)の調査の正当性でした。
 曰く、御所浦では特定のグループ(声高に自分たちは水俣病と言う人)を集めたのではないか、感覚障害の検査は被験者の訴えに依拠しており客観性がないのではないか、と質問してきました。
 これに対して二宮証人は、御所浦、北浦ともに全戸を対象に検査を呼びかけており、また両方とも集落の住民内での食生活には差がなく、集まった人が政治的にどんな派閥に属しているかは調査結果には関係ないと答えました。
 検査方法については、筆・針による方法は教科書的・基本的な方法で(実際、認定審査会の検査も筆・針によるものである:編者)、正確性・客観性を保つ工夫も色々考えられていること。また盲腸手術時の麻酔を例にあげて、麻酔が効いてきたのかどうかは患者本人に確認するのであり、被験者の訴えも意味のある情報であると証言しました。
 水俣病検診で問題なのは、コントロール(障害の程度の基準)を同一本人の胸としたことであり、これでは全身性障害の場合には、正しい検診を行うことができないと指摘しました。
 そこで感覚障害を定量化できる方法(フォンフライ)を導入したこと、その検査はどのように行うかについて具体的に身振りを加えながら証言をしました。
 また患者の自覚症状である「しびれ感」と医者が検査を行って他覚的に認知する「知覚障害、感覚低下」とを区別して論じないと、データの評価を誤り、混乱が生じることも指摘しました。 全身性の感覚障害と腱反射があることから末梢神経障害が否定でき、加えて2点識別覚異常から大脳皮質障害が明確になると断じました。

*チエさんの「四肢の知覚鈍麻」は水俣病
 今回の証言の大きな柱は、チエさんに診られた「知覚鈍麻」はメチル水銀曝露からくるものなのかどうか、という点だと言えます。
 被控訴人側は主に、尿毒症によるものではないのか、メチル水銀曝露によると判断する根拠は、と聞いてきました。
 二宮証人は、尿毒症によって四肢に感覚障害が現れるようになるのは、病状が進行して透析が必要になるような頃であり、チエさんがそういう状態であったならば診断書に記載されているはずだと指摘しました。
 メチル水銀曝露地区に生活をして汚染された魚介類を食べていた人に四肢の感覚障害が発症した場合には、頸椎症や脳卒中などの他の疾患の可能性が否定されたならば、メチル水銀中毒症(水俣病)と判断できると証言しました。
 裁判官も、チエさんは多発性ニューロパチー(末梢神経系障害)と考えられないのかと質問をしてきました。
 二宮証人は、末梢性神経障害ならば感覚神経と運動神経が一緒にやられるが、チエさんには運動神経障害の所見はない。末梢神経障害がないと判明した時点で、多発性ニューロパチーは除外されると答えました。
 裁判官の質問内容からも、この裁判ではチエさんの「四肢の知覚鈍麻」をどう評価するかが大きな焦点であることが覗えました。今後この点についてより明確にする書面を準備しなければならない必要性も感じられました。

<第52準備書面>

 一審の判決の論理は、チエさんを診たS医師の技量を全く否定した上に成り立っていました。
 私たちは、この一審判決の論理を崩す資料を探していましたが、皆さんのご協力を得て、多くの資料を集めることができました。
 例えば、S医師は、被控訴人(熊本県)側が“権威”とする現認定審査会会長の岡嶋透氏から、水俣病検診について直接講習を受けていたこと。熊本県が実施した住民調査にも検診医として参加していたこと。水俣市立病院勤務時代には三嶋功氏(当時副院長、後に認定審査会委員長)からの指導をうてけおり、実際に感覚障害の検診方法は三嶋氏と同じであったこと、等を証拠立てる資料を得ることができました。
 これらの証拠に加えて、これまでの医学証人(津田敏秀氏、原田正純氏、二宮正氏)の証言から、医者が書く診断書の位置・重みに関する証言部分を整理して、一審判決や被控訴人がS医師の診断書に疑義を挟むことの不当性を主張しました。

*冒頭でも報告しましたように溝口訴訟は、勝訴判決に向かって全力で闘います。今年も皆さんのご支援をお願いします。

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