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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2010/05/16

チエの話 (ちえのわ ) (その28)

○次回 第10回口頭弁論  2010年8月2日(月)13:30〜福岡高裁
 中村政明氏(熊本県側の医学者)の証人採否など
 門前集会13:00〜 福岡高裁前 法廷後の報告集会も予定

○第9回口頭弁論報告   鈴村多賀志

 4月26日の口頭弁論は、本年1月の裁判長交代を受けて、山口弁護士がこの裁判で問われるべき課題、争点を整理する弁論を行いました。
 弁論当日には右陪席裁判官も交替していて、これで西謙二裁判長,脇由紀右陪席、桂木正樹左陪席という構成になりました。
 私たちは、当日までに第53、54準備書面を提出していましたが、冒頭に被控訴人(熊本県)側の平野代理人から、提出書面以上の内容を陳述をしないようにというクレームがつきました。しかし山口弁護士は、口頭弁論が原則の法廷でそのようなことを言われる筋合いはないと一蹴し、第53、54準備書面の補足説明と被控訴人側が新たに提出してきた第3準備書面に対する批判の弁論を行いました。

<第53準備書面>

 先ず、控訴審は既に2人の医学証人の証言を得て、チエさんの四肢末梢の感覚障害をどう評価するか(鑑別診断)の審理を終え、裁判は最終段階に入っていると主張しました。
 次に、控訴審はこれまで医学論を中心に進められてきましたが、それは原審(熊本地裁)がチエさんの症状を全部否定するという判断をしたため、控訴人(原告)側はその反証から始めなければならなかったことを説明しました。
 この裁判で第1に問われなくてはならないのは、チエさんの検診が3年間もかかって未了にされたこと(しかも県側が特に重要と主張している神経内科の検診をしなかった)、そしてチエさん死亡後は17年間も病院調査を放置して医学資料を散逸させた上で、申請から21年間後に棄却処分にしたことの異常性・違法性であることを強調しました。処分に21年間もの歳月をかけることは、公害被害者の「迅速」な救済を目的・趣旨とする救済法(現公健法)に反する行為です。特に1976年12月15日の不作為違法確認訴訟で、申請から処分まで2年以上の長期に放置することは違法であることが確定した後も放置を続けてきたことは、手続の違法性のみで原処分(チエさんを棄却した)を取り消す理由になるほど悪質です。
 この点に関して、チエさんには責任は全くありません。これまで控訴人側は何故これほど処分を放置したのか、チエさんら未検診死亡者をどのように扱ってきたのかを明らかにするように再三要求(求釈明)をしてきました。しかし、被控訴人側は抽象的一般論を繰り返すだけで、具体的な理由を説明しません。病院調査をするはずだった当時の担当者(河野慶三氏)たちも「覚えていない」と答えるのみであり、これは証言の拒否にも等しい行為です。
 最後に、現在進められている特措法と関連して、不知火海沿岸住民の悉皆調査を拒否し、水俣病被害の実態を明らかにしないまま「和解」へと導く国・県の陰謀に流されないように、医学的にも適切で、かつ救済法の要請に基づく審理をするよう要望しました。
 その上で改めて、再三の求釈明に答えてチエさんの処分経緯の実態を明らかにすること、また野村瞭氏(チエさん死亡直後に熊本県公害部主席医療審議員に就任、チエさん以外の病院調査をしていた)の証人採用を求めました。

<第54準備書面>

 第54準備書面では、チエさんに残された限られた資料を一から丹念に取り上げ、不明な点は率直に不明であると認めた上で、チエさんは水俣病であったと結論づけました。
 山口弁護士は第54準備書面について、何故控訴人側がこのような書面を提出せざるを得なかったのか、それは被控訴人がなすべきこと(チエさんの検診、死亡後の病院調査)をしなかったためであり、単なる医療過誤事件とは異なることを強調しました。

<被控訴人第3準備書面と中村証人申請>

 県側は4月19日付けで第3準備書面と中村政明・国立水俣病総合研究センター(国水研)医師の証人申請書を提出してきました。
 準備書面では、申請診断書を書いたS医師から新たに陳述書(乙152号証)も得て、チエさんには症状そのものが認められないという従来の主張を繰り返してきました。中村証人は神経内科専門医として水俣病の病像・検診方法を証言するとしています。
 これに対して山口弁護士は、鑑別診断の審理が終えた段階で、チエさんの症状の有無を問題にするのは議論の蒸し返しであると批判しました。また乙152号証でもチエさんの四肢末梢の知覚鈍麻は否定されていないことも指摘しました。
 これまで控訴人側はチエさんに即して医学論を進めてきたのに対して、中村証人の尋問事項はチエさんとは直接関係ないものであると指摘しました。医学証人を申請するならば二宮意見書に反論をした衞藤光明氏が出てくるべきであるとも主張しました。
 チエさんを未検診のままに病院調査を意図的に放置して医学資料を散逸させたのは被控訴人側です。それを棚に上げて、21年間経ってから100%の確定診断を求める資料、検診方法を要求するのは、検診をしないことのリスクは全て申請者が負い、そのメリットは全て県が得る、という不正義がまかり通るものだと主張しました。

<裁判所の関心事を表明>

 西裁判長からは、チエさんには四肢末梢に感覚障害があったことを前提に、その原因について関心があり、中村証人についてもその原因について証言するのであれば対応したい、との発言がありました。
 そして次回(8/2)口頭弁論までに被控訴人側からは中村証人の意見書、控訴人側からはそれに対する反論書を提出するよう指示をして、26日の口頭弁論は終えましました。

<国水研は何のために存在するのか>

 第53、54準備書面、被控訴人第3準備書面のホームページ掲載は現在準備を進めています。(注:ママ)
 このところ臼杵扶佐子氏(患者が主張する検診方法を批判)、中村政明氏という国水研の現職員が行政側の医学者として登場するようになりました。井形昭弘氏、衞藤光明氏らに次ぐ御用学者の第3世代と言ったところでしょうか。
 今回の特措法の措置案でも国水研の強化がうたわれていますが、「患者救済」の名のもとに患者に敵対する機関に国費を投入することには深い憤りを禁じ得ません。


○東 俊裕弁護士が辞任されました。

 この度、東弁護士が政府の障がい者制度改革推進会議担当室長に任命されました。このため利害がぶつかる両当事者(行政側と患者側)の代理人には同時になれないため、溝口訴訟訴訟代理人を辞任されました。
 東弁護士は2005年1月頃から溝口訴訟に加わり、山口弁護士アメリカ留学後は1人で代理人を担当、奮闘されてきました。改めて、5年間お疲れさまでした。ありがとうございました。

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