トップ > チエの話一覧 > チエの話29
溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2010/08/23

チエの話 (ちえのわ ) (その29)

○次回 第11回口頭弁論
 2010年10月14日(木)14:00〜福岡高裁
 中村政明氏に対する被控訴人側(熊本県側)の主尋問
 門前集会13:30〜 福岡高裁前
○次々回 第12回口頭弁論
 2010年12月14日(火)13:10〜福岡高裁
 中村政明氏に対する控訴人側(患者側)の反対尋問
 門前集会12:40〜 福岡高裁前
*10/14、12/14ともに法廷後の報告集会も予定しています。

○第10回口頭弁論報告   鈴村多賀志

 8月2日の口頭弁論では、被控訴人側(熊本県)が申請をしている中村政明・国立水俣病総合研究センター(国水研)医師の証人採否が審理されました。
 今回、溝口訴訟では初めて難聴の溝口秋生さんのために、付添人がパソコン画面に法廷内のやりとりを打ち出すという試みが採用されました。このような取組みは溝口訴訟に限らず、今後は裁判のバリヤフリー化として普及していくものと思います。できれば裁判所の業務として積極的に取り組んで欲しいと思います。

<熊本県の応訴態度を批判>

 法廷では山口弁護士による意見陳述が行われました。山口弁護士は、まず最初に7月16日のFさん訴訟大阪地裁判決について言及しました。Fさん訴訟判決では、52年判断条件を公健法認定の唯一基準とすることを否定しました。この裁判の過程で、公健法における水俣病認定の要件について、被告国・熊本県は「『定説的』な医学的知見に基づく『規範的要件』」(Fさん訴訟の被告第8準備書面)と主張しました。しかし、判決では「水俣病にかかっているか否か(メチル水銀の経口摂取による健康被害を生じているか否か)の『事実概念』である」と被告側の主張を明確に否定しました。つまり国・県が主張する水俣病認定の法的根拠が、全く認められませんでした。
 実は、このFさん訴訟被告第8準備書面と全く同じ書面を、熊本県は溝口訴訟でも提出しています。(県側第2準備書面)
 水俣病認定の基本的な考え方が否定されたわけですから、国・県は何らかの検討・補充説明が迫られているはずです。にもかかわらず、Fさん訴訟判決を全く無視した対応は、法廷を侮辱するものだとまで批判しました。
 今回に限らず、例えばチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決で決着のついた問題(感覚障害の責任病巣など)など、司法に明確に否定された主張を、国・県は裁判を起こされる度に何回でも繰り返してきました。このような対応は、いたずらに裁判を混乱・長引かせるだけです。山口弁護士は裁判を無視するものだと「満腔の怒りをたぎらせている」と抗議しました。

<趣旨の不明な中村証人申請>

 次に中村氏の証人申請について述べました。
 県側はこれまで水俣病の検診・診断には「高度の学識や経験」が必要であると繰り返し強調してきました。では、中村氏には水俣病についてどのような経歴や実績があるというのかという求釈明には、何ら答えていません。また中村氏証人申請の立証趣旨には、チエさんについて全く触れていませんが、これを訂正することもしていません。これでは中村氏の証人申請に対する意見など、まともにできるはずもありません。ならば一審審理で二宮意見書に対する反対意見書を書いた衞藤光明・元国水研所長が出廷すべきではないかとも陳述しました。

<中村証人の採用を決定>

 山口弁護士の意見陳述は予定の10分間を大幅に超えるものでしたが、陳述が終わると西裁判長は即座に中村証人の採用を決定しました。ただし二宮証人の時と同様に証言の内容は、チエさんの感覚障害の原因について関することに限定するようにとの縛りがかかりました。これは裁判官の関心がやはりここにあり、中村証言を突き崩し、感覚障害の原因がメチル水銀中毒であることを裁判官に納得させることが、勝訴への重要な鍵となることを示しています。
 ところが証人尋問の日程を決める段になってまた一悶着がありました。県側代理人は、中村証人の都合について10月中旬の数日しか聞いてこなかったと言うのです。反対尋問の日程も決められず、法廷後の進行協議で話し合い、結局県側の主尋問が10月14日(木)、患者側の反対尋問は12月14日(火)となりました。

<矢継ぎ早に書面を提出>

 当日までに、私たちからは第55〜58準備書面、県側からは中村氏の意見書が提出されました。(各書面ともホームページへの掲載を準備中)

*第55準備書面
 前回口頭弁論(4月26日)で山口弁護士が口頭で述べた意見陳述を、裁判所からの要請で文章化したものです。内容は第53準備書面の補充説明。溝口訴訟の本質は、熊本県による未検診死亡者の放置・切り捨て事件の責任を問うことであると主張しています。
*第56準備書面
 県側第3準備書面に対する反論です。公健法が要請する検診のレベルを県は無視していることや、医学的証拠の(主にS医師診断書)の恣意的な扱いを批判しています。またチエさんの四肢の感覚障害の様体は、腎疾患によるものとは明らかに異なることを述べています。
*第57準備書面
 中村証人申請について、手続論の観点から批判をしました。この裁判は県がチエさんを棄却処分したことが争点であるにもかかわらず、中村意見書はその点については全く触れていない上、県の立証趣旨や尋問事項にはチエさんに関する事項が全くないことを論難しています。そして中村証人の水俣病に対する経歴・業績についての求釈明をしています。
*第58準備書面
 Fさん訴訟判決を踏まえて、県の応訴態度を批判しました。8月2日の意見陳述です。
*中村意見書(県側)
 チエさんの感覚障害は腎疾患によるものであると主張しています。また、感覚障害の所見は「専門医」でなければ正しく診ることができない。チエさんのメチル水銀曝露は水俣病を発症するほどではなかった(閾値論)と述べています。基本的には県側が従来から主張してきたことと異なるものではありませんが、閾値論関係についても強化してきたのは、現在強行されている特措法との関連も考えられます。

<裁判は大詰め>

 進行協議では裁判長から、次々回までに他の証人申請についての対応を決めるよう求められました。県側の医学証人が採用され、裁判も大詰めを迎えたと私たちは考えています。中村証人尋問の日程が月曜日ではないため、法廷がいつもより小さい部屋となりますが、多くの人が傍聴に参加するようにお願いします。

トップ > チエの話一覧 > チエの話29