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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2014/6/14

チエの話 (ちえのわ ) (その45)

*食品衛生法に基づく水俣病の住民食中毒調査を義務付ける判決を求める署名活動に、ご協力をお願いします。
(編者注:署名活動は2015年1月で終了しました)

○食品衛生法に基づく水俣病食中毒調査義務付け訴訟

 前号でもお知らせしましたが、2014年5月16日に、水俣病が集団食中毒であることによる住民調査を義務付けを求める訴訟(食品衛生法に基づく水俣病の法定調査等の義務付け行政訴訟等請求事件)を、東京地裁に提訴しました。
 具体的な請求内容は、

@水俣保健所長と天草保健所長は、食品衛生法58条に基づく、1959年から現在までの水俣病発生に関する調査を行い、その結果を熊本県知事に報告すること。

A熊本県知事は、食品衛生法58条に基づく上記の調査結果を、厚生労働大臣に報告すること。

B厚生労働大臣は、食品衛生法60条に基づき上記の調査・報告を行うよう、熊本県知事に求めること。

C当該保健所長、知事がそれぞれの調査・報告を行わないこと、また厚生労働大臣が調査・報告を求めないことは、違法であることを確認する。

D原告に対する金10万円の損害賠償。

<訴状の概要>

 訴状では、公式確認から6か月後の1956年11月には、水俣病は魚介類による食中毒であることが判明していたこと。そして、当時既にこのような大規模な集団食中毒に対する行政対応や実態把握の方法(すなわち食品衛生法に基づく住民食中毒調査)が、関係行政機関の義務として法定されていたことを指摘しています。
 また、水俣病の実態把握(病像やメチル水銀の汚染範囲)をしなければ、適切な施策ができないことは自明であり、現に1991年の中央公害対策審議会答申や、2004年の熊本県の八代海沿岸住民調査の提案など、行政側からも住民調査の必要性が説かれてきたことを列挙しています。
 しかし、水俣病ではこの当たり前の対応がなされず、代わりに作られた本人申請主義と認定制度は、実態把握からは遠のき、事態を混乱させるだけだったことを明らかにしました。
 何の医学的・科学的根拠を持たない「S52年判断条件」によって、水俣病の病像がねじ曲げられ、さらに本人申請主義では、家族や地域の事情のため申請することが困難であり、患者として名乗り出たくてもできない状況があることを指摘しています。
 その結果、公式確認から58年を経た現在に至っても、水俣病は解決するどころか、民間の調査によって新たな患者や汚染地域の拡大が確認され続けている事実を指摘しました。
 水俣病は、食品衛生法の目的である「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図る」が未だ履行されていない現在進行形の事件であり、直ちに適切な対応施策をとならなければ、不知火海沿岸住民が今後も回復困難な損害を被ることを訴えました。

 とりあえずこの訴訟では、義務付ける相手は国と熊本県のみで、原告は佐藤英樹さん1人から始めましたが、今後、原告は順次増やしていく方針です。(文責 鈴村)


○新通知による差し止め仮処分申立て

 仮処分の申立ては、現在東京高裁に係っています。(3月13日即時抗告)
 去る5月13日に、相手方(裁判の被控訴人に当たる)の国・熊本県の意見書が、東京高裁に提出されました。

<県の認定審査も「処分」ではない>

 国・熊本県の意見書では、3月7日に発出した新通知も、さらには、熊本県の認定審査会による審査も、行政訴訟にかかる「処分」には当たらないとしています。
 いずれも「直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を何ら伴うものではない」との主張です。
 新通知や認定審査会の審査が、水俣病の認定、すなわち「国民の権利」を形成・範囲を確定するのに何ら効果をもたらさないとは、これ以上の空々しい主張を私は聞いたことがありません。
 環境省は、関係県・市(新潟市)や国の臨時認定審査会の審査にタガをはめるために新通知を発出したのであり、認定審査会の答申を無視して県知事が認定や棄却の処分を決定することはありません。
 だからこそ水俣病関連の数々の訴訟で、S52年判断条件の妥当性や審査会の実態が、争点として争われてきたのであり、また現在も争われているのです。
 昨年4月の最高裁判決でも、わざわざS52年判断条件について言及したのも、それが水俣病認定に関して、決定的な役割を果たしているからです。
 なお、昨年4月の最高裁判決は、認定審査について、環境省の掲げる症状の組合せに限定することなく、いろいろな資料を基にした柔軟な審査を求めたのであり、認定条件に新たに細かな条件を付け加えよ、とは一言も言っていません。3月7日「新通知」は最高裁判決の趣旨を明らかにねじ曲げています。

 認定に至る仕組みを問わず、最終結果(県知事による認定又は棄却決定)にしか、法的責任が問われない、と言うことは、その仕組みを作った行政官たちの責任を不問に帰することに繋がります。
 特に、今回の「新通知」は、100%環境省特殊疾病対策室の職員のみで一方的に作成されたことが、新聞報道(4/30西日本新聞)や飯野暁企画課長補自身の発言(3/7環境省のマスコミレクチャー、4/2水俣病被害者互助会による環境省交渉)によって明らかになっています。
 このままでは、今後、患者や支援者たちの闘いによって、新通知の非科学性・違法性が明らかになっても、小林秀幸特殊疾病対策室長らの責任が、法的に問われることは困難でしょう。
 数年で入れ替わる官僚による無責任体制を、今、断ち切らなければ、未来にわたって公害・薬害事件がなくなることはありません。

<健康被害は金銭で償える>

 そして仮処分の緊急性に関しては、抗告人の健康被害は金銭で補償できるので「償うことのできない損害」ではない、と張しています。
 これは驚くべき主張です。その時々の症状・状態に合わせた適切な判断・治療を得なければ、健康被害は重篤化していくのは、水俣病に限ったことではありません。
 だからこそ、水俣病の認定に際しては「その症状の軽重を考慮する必要はなく」(S46年事務次官通知)とされているのです。
 憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の実現とは、命や健康を売り渡して補償金を得ることではないはずです。
 弁護団では、この国・熊本県の意見書に対して、6月3日付で反論書を提出しました。東京高裁の判断に、ご注目ください。 (文責 鈴村)

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