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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2014/11/16

チエの話 (ちえのわ ) (その47)

(1)水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第3回口頭弁論
 2015年1月16日(金)11:00〜 東京地裁
 弁論前後の行動予定については、決定次第お知らせします。
(2)新通知差止め訴訟 10月31日 控訴理由書を東京高裁に提出

○10月24日水俣病食中毒調査義務付け訴訟第2回口頭弁論報告

 10月24日11時に開廷した第2回口頭弁論では、原告・佐藤英樹さんの意見陳述と、調査の義務付けを求める署名の提出を行いました。

<原告意見陳述>

 佐藤さんは、はっきりした声で次のように訴えて、司法による憲法と法律の実現を判決に求めました。

 佐藤さんは、1954年に水俣病の激震地である水俣市の袋に生まれました。自宅から海岸までは僅か20mでした。
 実家は漁師をしており、祖母と両親は認定患者、4人の姉弟も全員が水俣病の医療手帳と被害者手帳の受給者です。佐藤さん自身も、へその緒の水銀値が0.671ppmであり、非汚染地区の平均0.1ppm前後よりも6倍以上も高く、胎児期より汚染されていたことが分かります。
 しかし、1995年に最初の水俣病認定申請をしましたが、1年後に棄却されてしまいました。2度目の申請を1999年にしましたが、いつまでも放置されたため、諦めて取り下げました。
 意を決して2005年に3度目の申請をしましたが、9年を経た今に至っても、耳鼻科と眼科の予診が終わっただけです。
 水俣病事件とは、58年前の1956年に最初の患者が発見されたという事件ですが、その以前から、海と魚や貝や海草はチッソの猛毒で汚染されていたのでした。
 佐藤さんの、このような家族の状況と環境汚染の事態を、チッソも国も熊本県も知っていながら、58年間も、佐藤さんはほったらかしにされているのです。
 そこで佐藤さんは同じ仲間とともに、2007年に熊本地裁に国家賠償訴訟を提訴しました。
 この訴訟の判決が、今年の3月31目にありました。佐藤さんの水俣病罹患が認められ、チッソと国と熊本県に賠償が言い渡されました。
 ところで、公害健康被害補償法は公害の被害者をいっときでもはやく、公平に判断する手続です。一方、国家賠償という訴訟は、それよりも何倍も厳密な手続だと言われています。
 しかし佐藤さんの場合は、早く公平であるべき公健法の手続は19年掛かっても、棄却や保留の状態なのです。(裁判の方が早い)
 裁判官は、国や熊本県がやっていることは、おかしいと思いませんか?裁判官は、この原因は何だと考えますか?
 国と熊本県が、58年前からチッソに加勢して、水俣病の患者を切り捨てているからです。
 国と熊本県が患者を切り捨てるやり方は、水俣病の現地調査もしない、研究もしないで、勝手に自分達に都合の良い診断基準を作って、棄却しています。
 水俣病の認定の基準である52年判断条件はどうやって決めたのか?現地の患者のデータや医学論文があるのか?
 国も熊本県の代理人は、何も答えられません。何も根拠が無いという、恐ろしい事実なのです。
 だから佐藤さんは、食品衛生法に決められている汚染地域の調査をして下さいと、訴訟を起こしたのです。
 ところが、国と熊本県はこの訴訟でも、行政訴訟の要件がないなどと反論しています。
 それなら国と熊本県とは、どういう方法で、この水俣病事件を正しくすると言うのでしょうか。正しい水俣病の基準を、どうやって作ろうというのでしょうか。この答を具体的に示さない限り、水俣病事件に対する答にはなりません。
 憲法は国民の生命身体の安全を保証しています。そして食品衛生法は、食中毒現地の調査をはっきりと決めています。
 佐藤さんは、この食品衛生法の訴訟で、憲法と法律の実現を期待している、と訴えました。
 そして最後に、裁判長に対して、本当の職務と責任と誇りを忘れないで下さい、58年目の水俣病事件のこの実態に対して、裁判官も責任があるのです。と陳述を締めくくりました。

<署名提出>

 皆さんの多大なご協力を得て署名は、2014年10月23日で1468筆になりました。誠にありがとうございました。この署名を、24日に甲号証(患者側の証拠)として提出をしました。署名が証拠として採用されるのは異例なことです。
 提出するに際して、山口弁護士は次のように意見を述べました。

 この署名は、公健法の指定地域の住民だけでなく全国の住民が、食品衛生法に基づく調査を強く求めていることを表明したものである。
 しかし、国や熊本県は、訴訟を起こす要件に関する議論のみに終始して、調査を拒否する理由を全く述べていない。
 このような行政の態度は、極めて不当であり国民の権利に明らかに反している。

 そして6つの項目について、被告の国と熊本県が釈明することを求めました。

1.法に定められている食中毒調査を、被告が拒否する適正な理由があるのか。

2.被告は、水俣病事件を食中毒事件ではないと、今でも主張するのか。

3.1958年旧厚生省作成の「全国食中毒事件録」には、水俣病が記載されている点について、被告はこれは参考事件だと主張している。
 この根拠は何か。

4.被告は、調査の「診定」とは、中毒患者としてカウントすることであって、それ以上に患者と国との間で何の「権利義務関係」は生じない、と主張している。
 では、被告は「診定」した患者を放置したままで良いと言うのか。

5.上記4と主張する根拠は何か。

6.次記の被告第1準備書面主張の根拠は何か。調査の目的だと言う「公益の保護」とは何か。

 次回に、被告がどんな主張をしてくるのか、注目してください。

<被告第1準備書面>

 国と熊本県は、10月24日づけで第1準備書面を提出してきました。
 先の答弁書(8月1日付)では、調査の義務付け請求について、調査には行政訴訟を起こせる「処分性」(国民の権利義務を形成したりその範囲を確定すること)がないと主張していました。
 今回は、佐藤さんの損害賠償請求に関しての反論でした。
 曰く、食品衛生法の調査は「公益の保護」が目的であって、個別個人の食中毒の発生状態や病像を明らかにするものではない。よって、損害賠償訴訟の対象ではない、という主張です。
 しかし、住民調査とは、個別個人の食中毒の状態や病像を確認した結果を積み重ね、集積していくものではないのでしょうか。食中毒になるのは個別個人です。個別個人の実態を把握せずして、地域全体の実態は理解できません。被告の言う「公益」とは一体何なのでしょうか。
 私たちは、この被告の机上の主張に、厳しく反論をしていきます。(文責 鈴村)

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