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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2015/2/12

チエの話 (ちえのわ ) (その48)

(1)水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第4回口頭弁論
 3月13日(金)11:30〜 東京地裁803号法廷
(2)新通知差止め訴訟控訴審 第2回口頭弁論
  4月21日(火)11:00〜 東京高裁822号法廷
  *弁論後の報告集会については、決定次第お知らせします。

○1月16日水俣病食中毒調査義務付け訴訟第3回口頭弁論報告

  1月16日、11時に開廷した第3回口頭弁論には、原告患者側は第2準備書面と、被告の厚生労働省も水俣病を食中毒として認識している、という証拠(国会答弁)を提出しました。

<第2準備書面>

*メカニズム解釈論
 被告(国と熊本県)は、国民が義務付け訴訟を提起できる「行政処分」とは、「直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められている」ものであるとする、過去の最高裁判例があると述べています。
 そして食品衛生法(以下「食衛法」)に基づく調査・報告は、その「行政処分」には当たらない(処分性がない)、と主張しています。

 第2準備書面では、最近の判例(最高裁判例も含む)では、行政行為の「処分性」を判断する際には、弾力的な解釈がなされている、と反論しました。
 現代のように、行政組織やその仕組みが巨大化・複雑化し、いくつもの行政行為が組み合わされて一つの行政活動がなされるとき、個々の行政行為を分断して評価するのではなく、全体の中で、その行政行為が持っている位置・役割を考慮して、最終的に国民に影響を与える「処分性」があるか否かを判断する(メカニズム解釈論)を当てはめるべきです。

*法の立法趣旨・目的にそった解釈
 水俣病事件においては、被告側も含む様々な団体・学会から住民健康調査の要請が続いてきたのにかかわらず、被告は法定化されている食衛法の調査でさえ、半世紀以上も拒否し続けています。
 これは食衛法が予測していない異常な状態であり、国民には立法趣旨に基づき、事態是正のための具体的な手続(訴訟の提起)が認められるべきです。
 憲法第13条(幸福追求権)、第25条(健康で文化的な最低限度の生活権)を水俣病患者にこそ実現するため、必要な法令解釈をすべきです。
 事実、2004年のチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決でも、国の権限は「住民の生命・健康の保護を主要な目的の一つとして、適時にかつ適切に行使されるべきもの」と断言しています。

 また、そもそも食衛法は、憲法第13条、25条に基づいて、個々の国民の生命と健康を守ることを趣旨・目的とした法律です。その食衛法の各規定が、個々の国民を守るものではない、という被告の解釈は認められません。
 第2準備書面では、カネミ油症福岡地裁判決や水俣病京都訴訟地裁判決を引用して、食衛法が憲法第13条、第25条の政治的理念に基づいて制定されていること、食品を飲食するのは抽象的な「国民」ではなく、個々の具体的な国民であり、食衛法は食品の衛生及び安全な供給を通して個々の国民の生命及び健康の安全確保を目的としている、と解すべきことを主張しました。
 当然ながら、第58条の法定調査も法の趣旨・目的にそった解釈・実施がされるべきものです。

*食衛法と公健法
 第2準備書面では、公健法との関係において、水俣病は公健法の対象疾病であると共に、食中毒事件でもありますから、環境基本法に規定する「環境を保全するための施策の策定に必要な調査(第28条)」や「公害に係る被害の救済のための措置の円滑な実施を図るため、必要な措置(第31条)」には、食品衛生法上の調査を含めるべきであると、主張しました。
 また、認定作業や認定基準に関して、両法は科学的行政的に関連し合い協働しなければ、国民の生命と健康を守れず、例えば公健法上の認定基準を作成するにあたり、食品衛生法上の調査の実施と、そこで得られたデータを活用すべきことは公衆衛生学上の常識である、と主張しました。

*求釈明
 最後に、被告に対して釈明を求めました。

@ 被告は、住民調査の必要性は全くないと考えているのか。

A 2008年、当時の麻生太郎総理大臣名の国会答弁書において、水俣病は水俣湾周辺の魚介類を多量に摂取したことによる中毒性疾患である、ことを1959年11月に認識したと答弁しています。
 それでも被告は、水俣病事件は食中毒事件ではないと主張するのか。

B 旧厚生省の「全国食中毒事件録(昭和31年度版)」には「主要食中毒事件の概要」として、水俣病が収載されています。
 しかし被告は、この水俣病の取扱は食中毒事件ではなく、参考事件として収載したと主張しています。
 参考事件とはどういう意味なのか。

C 被告は、食衛法の法定調査の「診定(=食中毒患者であることの確認)」は、患者・国民のためになすものではないと主張しています。
 ならば被告らは、診定した患者に罹患の有無も告知せず、その後は放置し、何らの救急措置も取らないという主張なのか。

D 被告は、食衛法の法定調査は、行政の目的でなされるのであって、患者・国民のためではない、という趣旨を主張していますが、その主張の根拠は何か。

E 被告は、食衛法の法定調査の目的は専ら公益を保護するものであると主張しています。
 では、公益の具体的な意味と、公益と中毒患者が直接福利を受けることとが二律背反する理由を明らかにせよ。

<争点を法理論に絞り込む裁判長>

 これに対して谷口豊裁判長は、原告に対して以下のような注文をつけてきました。

@ 被告が、食衛法58条の調査を行っても「国民との間に権利義務関係が生ずる効果がない」ので「行政処分」に当たらない、と主張しているので、これに反論してほしい。

A 食衛法58条、60条に基づく調査・報告の実施の有無によって、原告佐藤さんの権利・地位が法的にどのように変わるのか、説明してほしい。

 被告側は、患者側の次回準備書面を見て釈明を行う、と表明しました。
 谷口裁判長(横田典子、下和弘両裁判官も)は、後述の新通知差止め訴訟では、「処分性がない」という国・熊本県の主張をそのまま認めて、訴えを却下(門前払い)するという不当決定をしている裁判官です。
 被告らの無作為・放置によって、佐藤さんをはじめとした水俣病患者がおかれている現状を解決するよりも、法条文の解釈論に重きを置く裁判官たちです。
 机上の議論ではなく、現実に水俣病に苦しんでいる、特に未だ声を上げられないでいる潜在患者の人々にも、光をあたえる判決を出させなければなりません。
 是非、傍聴席を満席にして、水俣病は今でも社会の注目を集めている事件であることを、裁判官たちに訴えましょう。


○1月29日新通知差止め訴訟控訴審第1回口頭弁論報告

 控訴審の第1回口頭弁論では、第4(一審からの通し番号)準備書面の提出と、控訴人の佐藤英樹さんと山口弁護士による、意見陳述が行われました。

<控訴人意見陳述>

 証言台に立った佐藤さんは、緊張はしていましたが、落ち着いてはっきりした声で、石牟礼道子さん著「苦海浄土」の中の一章を原作にした一人芝居「天の魚(てんのいを)」に託して、意見を述べました。
 魚のいのちを頂いて生きてきた漁師(すなどりのたみ)一家が、チッソが垂れ流した毒によって水俣病になり、苦しみ泣き、切なく絶望し、それでも時には酔っ払って、笑って、しかも黙々と生活を続けていく物語です。登場人物は仮名ですが、実際に一人ひとりがいて、それは佐藤さんたちなのです。
 しかし、佐藤さんたちは、59年間も社会的に認められず、放っておかれています。
 この間に、国・熊本県(被控訴人)のしたことは、チッソを県債で救済し、患者を切り捨てることばかりでした。
 だから新潟水俣病やイタイイタイ病、カネミ油症事件が起こり、さらには原発の爆発とその海洋汚染が起こっているのです。
 公式確認以前から水俣病は発生していました。
 佐藤さんも50年前から、水俣病と認められるべきでした。
 しかし、国と熊本県は、溝口・Fさん訴訟の最高裁判決で否定された52年判断条件を、その後も使い続け、反って基準を更に狭くする新通知を出してしまいました。
 佐藤さんは、実は、52年判断条件で過去に認定を棄却されましたが、昨年、熊本地裁(互助会損害賠償訴訟)で水俣病と認められました。
 しかし、現在も国・熊本県は、佐藤さんの水俣病をニセだと言って争い続け、住民健康調査も拒否し続けています。
 最後に、「過去59年間の水俣病事件に対する、チッソの非道と行政の悪行を知らなければ、本訴訟も正しくは判断できないと思います」と締めくくりました。

<代理人意見陳述>

 続いて山口弁護士は、自分は40年間、被害者側の代理人として多数の訴訟を担当してきたが、これは自慢にできることではない、と陳述をはじめました。
 40年間訴訟を続けても、本質が何も解決できていない、59年間の放置が維持されてきたことに、弁護士自身の責任を感じると共に、チッソ・国・熊本県、さらには裁判制度・裁判官もその責任を負わなければならない、と訴えました。
 溝口訴訟最高裁判決は、この事態の最終的解決を目指すことを宣言したものでした。この判決に従って、被控訴人らが本気になって解決しようとすれば、解決の方向に行ったはずでした。
 しかし、判決の2日後には次官が否定の見解を出し、あらゆる訴訟・手続の場面で、行政は今までと同じように患者切り捨てを続け、さらには新通知を作って今までの悪行を維持し、弥縫する作戦にでたのでした。
 裁判官には、水俣病事件の実態を、今までの行政の無責任さを知って欲しい、と訴えました。
 そして一審判決について、控訴人が認定審査で水俣病を否定されても重大な被害は起こらない、前と同じ状態になるだけという趣旨のことを言っていることに対して、50年以上、水俣病の被害を負って生きていること自体、被控訴人らから正しい行政を受けなかったこと自体、申請しても52年判断条件を前提として適正な手続を受けられないこと自体が、すでに大損害を受けているのだ、と声を大きくして訴えました。

<第4準備書面>

*最高裁判決を否定する新通知
 新通知が溝口訴訟最高裁判決に反していることは、数々の証拠により明白です。
 さらにこの新通知は、環境省特殊疾病対策室(小林秀幸室長)が、内部の担当者のみで作成したものであり、その議事録・協議録すら作成しておらず、全くのブラックボックスの中で作成されたことが明らかになっています。
 しかも、溝口訴訟最高裁判決に従って従来の審査方法を改める宣言して、下田さんを逆転認定した公害健康被害補償不服審査会の裁決を、小林室長は、「認めない」と発言しています。
 即ち、室長は、溝口訴訟判決を否定するために新通知を作成したことを認めているのです。
 新通知は、個別認定申請者の認否に直接関係するものです。しかも新通知が前提とする52年判断条件が、水俣病の被害実態と乖離していることは、これまで再三司法により批判され続けてきました。また、医学的根拠もないことも、控訴人は指摘しています。
 被控訴人が、新通知の作成・発出の適法性を立証しない限り、その権限がないとされるのは、法治主義においては当然のことです。

*メカニズム解釈による司法判断
 被控訴人は、水俣病認定は都道府県知事等が新通知によって一義的に決定されるものではない、処分に不服がある申請者は他の手続で適法性を争えば足りる、と反論をしています。
 そして控訴人が指摘しているメカニズム解釈による最高裁判例(2004年4月、2005年7月、10月、2008年9月)と本件とは、事案が異なると主張します。
 しかしメカニズム解釈による判決(メカニズム判決)の意義は、対象となる行政行為を、実際に全体の手続からみて、連続的有機的に発展していく場合は、当該行政行為が仮に内部的なものであったとしても、行政訴訟としては処分性を認めるべきだ、と判示していることであり、一義的とか、救済手段の有無などは問うてはいません。
 通達に関するメカニズム判決(地裁で確定)も出ており、次回に詳しく主張する予定です。  そして水俣病認定に関しては、52年判断条件(環境保健部長通知)が直接的に悪影響を与えてきたことは明白であり、新通知も全体の認定手続のなかで決定的なものであり、この通知による基準を逸脱した審査・処分がなされることはあり得ません。

*重大な損害
 前記の代理人口頭意見陳述でも触れたように、控訴人が50年間もの間放置され続けていること自体が、既に重大な損害を受けているのです。

<審理を急ぐ裁判官>

 被控訴人(国・熊本県)代理人は、この訴訟は法的な問題がメインであり、これ以上の反論の必要は考えていない、と返答しました。
 柴田寛之裁判長は、訴訟提起から時間が経っており、次回までに控訴人の考えられる主張・立証を出して欲しい、と要求してきました。
 次回には結審に持ち込む意図が見えます。
 これに対して山口弁護士は、更なる書面・証拠の提出や、環境省の小林秀幸氏らの証人尋問請求等の用意があることを表明しました。
 控訴審を、一審のように机上の法解釈論による門前払いにさせないためには、次回の口頭弁論が最初の山場になってきます。
 是非、多くの方々のご支援、ご注目をお願いします。


 今春(2015年)は、全国各地で水俣病に関する訴訟が続きます。事務局で把握しているだけでも、下記のものがあります。

○2/26 大阪チッソ補償協定地位確認訴訟
 第1回口頭弁論 大阪地裁 13:30〜

○3/10 新潟水俣病第3次訴訟
 判決 新潟地裁 15:00〜

○3/23 水俣病被害者互助会訴訟控訴審  第2回口頭弁論 福岡高裁 14:00〜

 他にも詳細は把握できていませんが、川上さん訴訟(熊本地裁)や各地のノーモア・ミナマタ第2次訴訟などが闘われています。
 溝口訴訟弁護団東京事務局も、これらの訴訟活動とも連帯して、闘っていく所存です。

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