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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2015/4/5

チエの話 (ちえのわ ) (その49)

(1)新通知差止め訴訟控訴審 第2回口頭弁論
  4月21日(火)11:00〜 東京高裁822号法廷
  法廷報告集会:13:00〜15:00 ジーニアスセミナールーム秋葉原
  千代田区神田和泉町 1-12-17 久保田ビル5階
  「JR秋葉原駅」昭和通り口より徒歩4分 日比谷線「秋葉原駅」1番出口より徒歩3分

(2)水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第5回口頭弁論
  5月27日(水)11:00〜 東京地裁803号法廷
  *弁論後の報告集会については、決定次第お知らせします。

○3月13日水俣病食中毒調査義務付け訴訟第4回口頭弁論報告

<原告、被告の双方に宿題>

 3月13日の第4回口頭弁論では、原告側が第3準備書面を提出しました。
 これに対して、谷口裁判長からまず原告側に対して、まだ「確認の利益がない」という被告の主張に対する反論がない、との指摘がありました。これは食衛法に基づく調査や報告が実施されなかったとしても、原告・佐藤さんの「法的地位」は、なんら危険や不安定な状態にはならず、原告には不作為(行政がなすべき措置をとらなかった)違法の確認の訴えをおこすことができない、という被告の主張に対して反論を促したものです。
 これに対して山口弁護士は、次回の準備書面で反論すると答えました。

 一方、被告国・熊本県に対しては、「診定」とは具体的に何をすることか、について見解を示してほしい。その内容によっては、最終的な原告の「法的地位」にも影響がある可能性がある、という指摘をしました。
 さらに、まだ入口論の議論になっているが、原告が求めている釈明点についても、対応するよう求めました。

 被告は当初、これ以上の反論をするつもりはないと答えていましたが、裁判長の指摘を受けて、次回口頭弁論までに指摘に答える書面を準備することになりました。

 まだまだ油断はできませんが、当日の裁判長の訴訟指揮を見る限り、別訴の新通知差止め訴訟のように、問答無用の門前払いになる可能性は、少しは下がったのではと思われます。
 しかし、私たちがこの裁判で訴えたいのは、水俣病事件とは食中毒事件であり、法で定められている調査や報告が、59年間も放置されていることの不当性です。
 そして、その結果、何の根拠もない認定条件と、不必要な本人申請主義の認定制度が未だに維持され、補償・救済されるべき多くの被害者が切り捨てられている現状です。
 いったい、どのくらいの人々が水俣病の被害を受けているのか、という基本的なことさえ明らかになっていない実情を打開する判決を求めている、ということです。

 この訴訟を机上の法議論で終わらせないために、次回以降も、是非多くの方々の傍聴参加をお願いします。

<原告第3準備書面>

 今回提出した第3準備書面では、下記の被告主張に対して反論しました。

@食衛法に基づく調査・報告は、単に行政機関の間でなされる行為であって、原告や国民の権利義務を形成したり、その範囲を確定するものではない。

A食中毒調査の「診定」とは、単に医者が食中毒の事実を確認するだけであって、原告や国民の権利義務を形成したり、その範囲を確定するものではない。よって、食衛法に基づく調査・報告は、国民が行政訴訟を起こせる「行政処分」には当たらない。

*法の成立目的からの反論
 第3準備書面では、憲法25条1項(国民の健康で文化的な最低限の生活を営む権利)、同条2項(国の公衆衛生の向上義務)、および食衛法第1条の目的「国民の健康の保護を図ることを目的とする」を引用して、食衛法が保護を図っているのは、決して「抽象的な国民」などではなく、個々の国民であると主張しました。
 そして、その食衛法で規定する諸手続は、行政間の連絡行為も含めて、国民の生命・健康の保護を最終的な目的としており、当然ながら、国民の権利と直接の関係性を持っている、と主張しています。
 また、例え、調査・報告が被告が主張するように、行政施策をするための行政機関相互間での義務であったとしても、それは同時に守るべき国民に対する義務でもあり、互いに対立するものではなく、被告は何の根拠もなく二律背反の主張をしている、と批判しました。

*「診定」の意義について
 この訴訟では、食衛法に基づく食中毒処理要領に規定されている「診定」とは、具体的に誰が何をなし、食中毒患者に対してどのような効果が期待されているのか、が最初の争点となっています。
 第3準備書面では、食中毒処理要領や食中毒調査マニュアルの具体的な記載事項を詳しく挙げて、「診定」とは、単に医師が食中毒患者の存在を確認するだけでなく、保健所長への報告という行為を経て、地域の公衆衛生を図るものである、と主張しました。
 また、まだ医者の診断を受けていない患者には医者の診断を受けるように勧めることや、直ちに「応急処置」をすることを保健所職員に義務付けていることも指摘しました。
 この「応急措置」とは、言うまでもなく食中毒患者の保護・治療を期待しているものであって、食衛法による調査によって、国民としての福利を得る法的権利を得ることが明らかであると、主張しています。
 これまで、このような権利について議論がなされてこなかったのは、行政が直ちに対処することが、あまりにも当然であったからです。
 それは、例えば 火事が起こったら国民が消防署に通報すると、瞬時に消防車が出動するのが当然とされていることと同じです。
 被告の主張は、この場合に市民が通報しても、消防署が通報は受けたが、国民に対しては出動の義務性はないと主張するのと同じである、と指摘しました。
 そして、被告がこれを否定するのであれば、一体、国民は何法によって、生命が確保され、健康が保護されるのか。また、食衛法による調査なくして、他の手段で広域な食中毒事件に対処・拡大防止ができるのか、と訴えました。

*水俣病事件への保健所長の反省
 証拠として、茨城県筑西保健所長で元環境省特殊疾病対策室長だった緒方剛氏の「公衆衛生行政担当者の反省と教訓」(雑誌・公衆衛生2003年7月号)を、提出しました。
 緒方氏はここで、水俣病に関わった行政官として、数々の反省と教訓を述べています。
 その一つとして、「原因究明に努めるのみならず、他に被害者がいないかどうか、早期に広範囲の健康調査を実施することが重要である」「時には曝露後の長期影響についての追跡調査も必要である」と、地域住民全体に対する健康調査の重要性を挙げています。

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