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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2015/8/8

チエの話 (ちえのわ ) (その51)

(1)水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第7回口頭弁論
  9月8日(火)11:30〜 東京地裁803号法廷
  *法廷後報告集会を予定しています。詳細は決定次第お知らせします。

○7月10日水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第6回口頭弁論報告

<原告第6準備書面 被害の内容と因果関係>

 第6準備書面は、前回に裁判長からもっと具体的に説明して欲しいという要望に答えたものです。裁判長からの宿題は主に下記の2点です。

@原告の受けている被害とは具体的に何か。

Aその被害と食中毒調査をしなかったことと、どういう因果関係があるのか。

 原告の佐藤英樹さんは、水俣病多発地域の水俣市袋地区に生まれ、地域・家族丸ごと水俣病に罹患しました。
 しかし、食衛法に基づく食中毒調査が実施されずにいるため、他の食中毒事件の患者に比べて、行政上不適切不平等な扱いを受けています。
 現在でも、佐藤さんは、自分が食中毒である水俣病患者であるか否かを確認することができずにいます。このため、真実は水俣病であるにもかかわらず、社会的にも法的にも水俣病患者と認められず、認定患者(公健法)と比べても、社会的、経済的に大きな差別を受けています。
 また、食衛法に基づく食中毒水俣病の実態調査をしていないため、必要な疫学的データが得られず、国や熊本県は、医学的に適正な水俣病の病像も診断基準も作ることができないでいます。その結果、医学的な根拠が全くない違法ないわゆる52年判断条件を、公健法の認定基準に据えるしかありませんでした。
 このため、佐藤さんは公健法の認定申請をしても、違法な認定基準による審査のため棄却されてしまいました。
 そこで、国・熊本県・チッソに対して国賠訴訟(互助会訴訟)を提訴せざるを得ませんでした。しかし、そこでも国・熊本県・チッソから水俣病罹患を否定され、あげくには、時効・除斥を主張される事態となっています。
 これらのことから、佐藤さんは日々不安と焦燥感のなかで、悲惨な生活を強いられている、と主張しました。

<原告第6準備書面 互助会訴訟との関係>

 佐藤さんは互助会訴訟(福岡高裁で審理中)の原告でもあり、互助会訴訟でも食衛法を取り上げています。
 しかし互助会訴訟では、食衛法による漁獲・販売規制をしなかったことを問うているのであり、本件の調査・報告の不実施とは、争点や請求内容が異なることについて、整理しました。

<裁判長が細かく質問>

 10日の口頭弁論では、この第6準備書面について谷口豊裁判長が、細かなことに確認を求めてきました。
 例えば、第6準備書面では、「水俣病食中毒患者」などという単語が出てきますが、これらは「水俣病患者」とは異なる概念なのか。また、食衛法は数回の改正があり、調査・報告を規定している条項番号が変わっているが、これらの法改正を通して調査や報告が実施されていないことを問題としているのか、等です。
 これに対して、山口弁護士は、水俣病は食中毒であることを強調するために「水俣病食中毒患者」という表現をしているが、水俣病患者と異なる概念ではない。食衛法の改正前後を通して調査・報告が実施されていないことを問題としている、と答えました。

 このやり取りを聞いていた私は、以前の「診定」定義問題など、使われている用語の意味を厳密に(狭く)定義することによって、この訴訟で審理すべき争点を小さくしようとする、谷口裁判長の傾向を感じていました。
 ところが突然、第6準備書面で、住民調査を行わないことによって国は適切な水俣病の認定基準が作れないでいる、と主張している部分について、谷口裁判長がもっと具体的に説明するよう求めてきました。
 実は、この谷口裁判長は、次に記載します新通知差止め訴訟で、環境省の発出する通知(認定基準も部長通知です)は、「行政機関相互における内部行為にすぎず、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではない」として、原告(これも同じ佐藤さん)の差し止め請求を棄却した(東京地裁判決)本人なのです。通知が原告に及ぼす効力を、行政訴訟では認めず、国賠訴訟では考慮する、と言うことなのでしょうか?
 いずれにしても、水俣病事件に関わる訴訟では、事件の歴史や背景、患者のおかれている現状について、裁判官に実感を持ってもらうことが大切です。
 今後の準備書面で、いかにこの点を分かりやすく整理して主張できるか、が大きな課題と成ってくるようです。
 この訴訟に、多くの人々の注目が集まっていることを示すのも、一つの方法だと考えます。
 次回の口頭弁論は、9月8日(水)11:30からです。是非、多くの皆さんの傍聴参加、応援をお願いします。
(鈴村)


○6月25日 新通知差止め訴訟控訴審(東京高裁)不当判決

<僅か1分半の判決言い渡し>

 柴田寛之裁判長は、「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人が負担する」と、主文を読上げ、僅か30秒で退出しようとしました。
 山口弁護士が立ち上がり「裁判長、そのような判決で、60年間の違法行政の水俣病事件が解決すると思われますか」と問いかけましたが、柴田裁判長は、「もう終わりましたから」としか答えず、法廷は僅か1分半で終了しました。
 この訴訟の最終の裁判官構成は、柴田寛之裁判長、梅本圭一郎裁判官、小田靖子裁判官です。

<新通知の不当性には触れない判断>

 判決文では、まず、控訴人(患者側)が、環境省には本件通知を作成・発出する権限がない、と主張した点について、「本件通知の内容が違法である旨の主張であって、本件各訴えが適法か否かにかかわるものではない」と述べます。
 つまり、新通知の違法性・妥当性は関係ないと言うのです。そもそも、新通知が違法・妥当性を持たないものだから、私たちは差止め訴訟を提訴したのです。東京高裁は、審理すべき内容を間違えています。

<公健法の給付は利益?>

 また原告に「重大な損害を生じるおそれ」について、判決文では「認定申請は、公健法による補償給付を受ける前提となる水俣病の認定という利益処分を求めるものであるから、仮に本件認定申請を棄却する処分がされた場合であっても、控訴人は補價給付を受けることができないというにとどまり、その棄却処分によって当該処分がされる前の状態に比して何らかの不利益を課されるものではない」と述べています。
 公健法の補償給付は利益や特典でしょうか?認定されない水俣病患者が現に受けている被害について、全く見ようとしていません。

<新通知の処分性は認めない>

 さらに判決文は「(新通知は)都道府県知事や政令市市長に対するものであり、水俣病の認定事務について公健法の解釈・運用の指針を示すものにすぎないから、個々の認定申請者の権利義務を直接形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものということはできず、処分性を認めることができない」と述べています。
 昨年の新通知発出以降、2013年最高裁に基づけば認定されるべき申請者が、新通知による認定審査によって、次々に棄却されている現状を、完全に無視ししています。

 このような判決を、私たちは絶対に認めることはできません。弁護団は、7月9日に最高裁へ上告しました。
(鈴村)


○行政文書開示請求の経過報告

 弁護団では訴訟と平行して、新通知の根拠を明らかにするよう、環境省と熊本県に対して行政文書開示請求を続けています。
 開示資料の確認や、不開示に対する異議申立等が進んで行くにつれて、官僚たちの傲慢な、そして恐ろしい実態が明らかになりました。

<環境省 根拠は職員の頭の中>

 前号(チエの話50)でもお伝えしましたが、環境省が開示した26資料のうち、新通知の医学的根拠となっているのは、20年以上前の中公審答申(1991年)しかありません。
 当時は、水俣病感覚障害の機序は末梢神経障害によると考えられていました。
 そして、中枢神経障害であることが法的にも確定した2004年以降のものでは、新通知を支持する資料はありませんでした。特に、2013年最高裁判決以降のものでは、環境省自身の見解以外には、全ての資料が52年判断条件を批判、認定制度の改革を求めています。

 ところがこれらの点を批判された環境省は、後になって「開示した資料は全てではない」(熊本日新聞2015/06/24)と発言してきました。
 そこで、再確認の文書開示請求を行ったところ、「 医学知見は新通知作成に携わった職員が、その業務を通じて得たもので、議論の土台の知識としてあるので、それを議論用にレジュメ等の資料としては作成していない」と電話で回答してきました。
 つまり、新通知を支持する医学的根拠資料は自分たちの頭の中にあるので議論用の資料など作らなかった、という説明でした。

 就任から僅か1年余りだった小林秀幸・特殊疾病対策室長や飯野暁・保健部企画課長補佐らが、どんな科学的・医学的知見を得ていたのか分かりませんが、これでは、何を根拠に新通知を作成したのか、全く信憑性がありません。

<環境省 出張調査結果にメモ1枚残さない>

 環境省は、「最高裁は誤解していた」(西日本新聞2014/4/30)とまで言い放ち、52年判断条件の4パターンに合致しない場合でも、「総合的検討」をして認定審査をしていた、と主張して、新通知にその旨盛り込んでいます。
 この環境省の主張の唯一の根拠は、熊本県の過去の水俣病認定審査会資料です。この資料の収集・調査は、前述の飯野氏が担当しました。
 そして、飯野氏は、熊本県が提示した資料の中に、症候の組み合わせを満たさないで認定したと思われる例があり、その例を参照して新通知を作成した、と述べています。
 しかし、では、その参照した事例は何例あったのか、最高裁判決で認められた感覚障害のみの事例があったのか、等、具体的な質問には、数も内容も把握していない、と答えるのです。(2014/3/7環境省のマスコミレクチャー)

 そこで、この調査についての文書開示請求をしたところ、飯野氏は熊本県庁で閲覧した資料に関してメモの1枚もとっておらず、その結果をまとめたレジュメの1枚も作っていないことが分かりました。
 公費を使った出張調査の結果は、飯野氏の頭の中に収められ、他の担当職員には口頭で伝えただけだというのです。

<責任者は既にいない>

 第三者による検証が不可能なものに、根拠があるとは言いません。
 そして根拠や経緯が明らかにならないまま、彼らは2年余りで他の部署へ異動していきます。
 新通知を作成した小林氏、飯野氏らは、既に担当職にはいません。
 そして、これまでの経緯・事情を知らない後任者が、また私たちの前に現れます。
 実は前述の26資料を開示したときに、一部が欠けていた資料があったのですが、事務を引き継いだ後任者は、こちらが指摘するまでそれを知らなかった、というエピードがありました。
 文書管理一つとっても、このような杜撰な体制の中で、新通知は作成されたのです。

<熊本県>

 熊本県に対しては、どんな資料を提示したのか明らかになる文書の開示請求を行いました。
 すると、「環境省からのリスト等の提示がなく、県としても作成する必要がなかった」のでリスト等の資料はない、という通知が来ました。
 さらに電話で当時の状況について尋ねたところ、「膨大な審査会資料を、熊本県職員が取捨選択することなく、そのまま出した。資料について特に説明等はしていない。また、県職員が常に付いていたわけではないので、環境省職員が、提示した資料の中から何件についてどんな情報を得ていたのか、等は把握していない」との回答でした。

 そもそも当該資料の提示は、熊本県側から環境省へ申し入れたものであり、資料を選択・整理して、資料リストや資料の趣旨説明書等を作成・保管する義務・責任は熊本県にあります。
 また、環境省側の飯野氏は、医師免許を取得している技官でもなければ、水俣病事件を詳細に分析・研究している研究者でもありません。
 一方、審査会資料は、認定された人だけでも約1800人分にもおよぶ膨大な医学関係資料です。
 このような資料を、何の整理もせず、説明も加えず、水俣病事件に関しては初心者ともいえる飯野氏に、ただ提示しただけだと言うのです。
 そして、飯野氏がどのような情報を得たのか、熊本県は把握していない、と言うのです。
 これは、個人情報保護の観点からも問題ある、熊本県職員の対応です。

<文書を残す義務がある>

 環境省も熊本県も、法、条例や規則によって「処理に係る事案が軽微なもの」以外は、業務に関して、意志決定の経緯も含む行政文書を作成・保管することを定めています。
 新通知の作成過程に関して文書を作成・保管していないということは、環境省・熊本県自身が、新通知は「軽微なもの」と認識して、杜撰な経緯で作成していたことを、自白しているものです。
(鈴村)


○ノーモア・ミナマタ(東京訴訟) 法廷後集会 参加報告

 7月10日(金)14時から東京地方裁判所で、ノーモア・ミナマタ東京訴訟の第三回口頭弁論が開かれました。そのあと弁護士会館で報告集会が行われ、今回の裁判について以下のような説明が行われました。
 原告からは、第一陣原告が水俣病であることは診断で裏付けられているという内容の準備書面と、時効・除斥の制限は受けないという内容の準備書面が出されました。被告国・チッソからは前回の原告の準備書面に対する反論の準備書面が出され、当時国が食品衛生法での規制をしなかったことは違法ではないということを主張しました。原告がその反論の中に、被告の責任の根拠とする水質二法に関する反論がないことを指摘すると、被告国・チッソは水質二法については関西訴訟で決着しており争う意思がないことを表明しました。その結果、今回の裁判の争点は、病像論(原告らが水俣病であるといえるかどうか)と時効・除斥の問題になりました。
 報告集会では、時効・除斥について詳しい説明がありました。被告は、排水は昭和43年に止められたから20年経過しチッソの責任はないと主張しています。しかし昭和43年に排水が止められたからと言って水俣湾はキレイになったわけではなく、その後も加害は続いています。また現在国会で20年の除斥期間はおかしいのではないかという議論もあり、法律が改定されようとしています。仮に除斥ありとしても、起算点は水俣病だと分かった時点から(診断されたときから)であるべきです。これについて裁判所は従来、発症したときを起算点としています。
 裁判後の進行協議についても説明がありました。裁判所は引き続き大法廷で裁判を行うつもりであること、裁判所が原告の陳述を認めたこと、裁判所が被告国・チッソにも陳述を求めた、ということでした。
 最後にノーモア・ミナマタ東京訴訟では、今後10月までに第四陣の提訴を予定しているそうです。
(小笠原)

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