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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2015/11/29

チエの話 (ちえのわ ) (その53)

(1)水俣病食中毒調査義務付け津田訴訟 第1回口頭弁論
  12月16日(水)13:30〜 東京地裁522号法廷
 *14:30〜16:00 弁護士会館 1005号 会議室
         新潟3次訴訟(同日14:00東京高裁809)との合同報告集会

(2)水俣病食中毒調査義務付け訴訟(原告佐藤英樹氏)判決
  2016年1月27日(水)13:00〜 東京地裁803号法廷
 *判決前後の行動については、後日連絡いたします。


○11月4日水俣病食中毒調査義務付け訴訟 第8回口頭弁論報告(鈴村)

<結審>

 11月4日は、原告側から第9準備書面、被告(国・熊本県)側からは第4準備書面が事前に提出されていました。
 前回、谷口裁判長から被告に対して、食衛法調査が実施されないことによる原告の損害(国賠請求)に関して、具体的な反論をするように要望がありました。
 しかし、被告らは第4準備書面においても、食衛法調査は義務付けられたものではない、という主張を繰り返すのみで、なぜ法で定められた調査を拒否するのか、と言った原告の求釈明には、一切答えようとしませんでした。
 原告側としても、これ以上の口頭弁論を続けても進展は望めないと判断しました。
 11月4日は、原告・佐藤英樹さんが最終意見を陳述して、結審となりました。
 判決は、来年1月27日13:00となります。

<原告最終意見陳述>

 佐藤さんは、まずこれまでの裁判審理に感謝を述べた後に、「私か唯一求めているのは、憲法の基本的人権擁護の思想、国の約束のもとで、食衛法で法的に明確に細かく規定している調査を、行政が熊本水俣病食中毒事件ではじめから調査を拒否し、その後60年間経った現在も拒否し続けているので、こんなことは絶対に許せない、直ちに調査して下さい、と言うことだけです」と、この訴訟は、法に定められた当たり前のことを要求しているのであると述べました。
 しかし、被告は今日に至るまで、何の根拠もなく法定調査を拒否しています。
 もし、裁判所が、この訴訟を、訴訟の要件だけで判断したり、国家賠償金の支払いだけで済ませるようなことをすれば、あと100年たっても食衛法の調査は行われず、水俣病患者は一生救われず、ただ死を待つのみであり、それは、裁判所も被告と同じ60年間の水俣病患者切り捨て行政の共犯者となることだ、と訴えました。
 佐藤さんは、日々の暮らしの中で、道路を走るときには交通規則を守り、選挙に投票し、納税をして、法治国家の国民として守るべきものは「守るから、我々は安全に安心して暮らして行けるのだと思い込んで、感謝もしておりました」。しかし「水俣病事件に限っては、国も、厚労省も、環境省も、熊本県も、法律に書いてあることを、60年間やらなくとも、それがまかり通っているのです。こんな常識で考えられないことを、裁判官が許したら、もう裁判官が法治主義を破るのです」と、訴えました。
 最後に、「裁判官は法治主義のもとで、良心と本当の職務に反しない判決をして下さい。心から期待しております」と、陳述を終えました。

<原告第9準備書面の概要>

 第9準備書面では、まず、日本精神神経学会は、現行の水俣病施策が、医学・疫学の対処基準から異常にかけ離れており、その是正策として、まず食衛法に基づく調査が必要であることを、1998年から今日まで、幾度も意見書を発表していることを指摘しています。
 実際、現代社会において、多数患者の発生事件で、その病像把握・患者判定に、疫学に基づく調査手法を使わない国はなく、だからこそ、食衛法にも、詳細な調査マニュアル等を定めて、行政に対して疫学的調査を義務付けています。
 2013年4月の溝口訴訟最高裁判決は、52年判断条件は、水俣病患者の実態と大きく乖離していることを指摘しました。
 本来なら、過去の認定棄却事例が再評価されなければならず、また司法に対しても、水俣病事件への取り組み姿勢が、全て改められるべきです。
 また、食衛法調査は、憲法に基づく国民の生命健康を、国が保障するために同法1条の趣旨のもと規定されたものであり、個々国民の権利・法的利益に直接関係するものです。
 司法の真の目的は、水俣病患者の救済であって、法令の形式審査ではありません。憲法の基本的人権の観点、食衛法の目的、法定調査の目的を踏まえた判断を求める、と強調しました。

<被告第4準備書面の概要>

 被告の主張は、主に下記の2点です。

(1) 食衛法調査は、公衆衛生の見地から、専ら、公益を保護することを目的としているのであり、個々の食中毒患者の権利又は法的利益に直接影響を与えるものではない。
 よって、当該公務員が、個々の国民との関係で、食衛法の調査・報告を行う義務はない。

(2) 食衛法調査・報告は、個別の国民の権利又は法的権利を保護の対象としておらず、原告が主張する調査を行わないことによる損害との因果関係は認められない。よって、国家賠償法の適用には当たらない。


○環境省・厚生労働省前 行動(小笠原由衣)

 11月4日食中毒調査義務付け訴訟の法廷後集会の後、15時から環境省前で、国に水俣病新通知の撤回と住民調査の実施を求めるビラ配りを行いました。原告の佐藤英樹さんをはじめとして多くの支援の皆様が協力してくださいました。
 そしてビラ配りとともに弁護団事務局の鈴村多賀志さんが合同庁舎に通うみなさんに1時間に渡って熱く訴えました。
 今回のビラ配りで

・ 2014年3月に発出された新通知は、2004年の水俣病関西訴訟最高裁判決、2013年の溝口訴訟、Fさん訴訟の最高裁判決に違背するものであること。

・ 通知の根拠資料の開示請求により、新通知には何の医学的根拠もないことが明らかになり、またレジュメ1つ作らない無責任な作成過程で作成されたものであること。

・ 水俣病は集団食中毒事件であり、水俣病確認当時から食中毒事件に対応した法律があったにも関わらず、公式確認から60年が経過してもなお一度も法定調査が行われていないこと。そして現在行われている食品衛生法に基づく食中毒調査義務付け訴訟においても厚労省は、食衛法に基づく食中毒調査は公益の保護のためにあると主張し、食中毒調査の実施を拒否し続けていること。

を知ってもらえたと思います。
 今回のビラ配りを通して、公式確認から60年が経ってもなお1度も調査すら行われず、違法・不当な52年判断条件をさらに厳しいものとする新通知によって患者切り捨てが行われているという事実をまず多くの人に知ってもらうということが大事だと思いました。

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