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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2016/02/20

チエの話 (ちえのわ ) (その55)

津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟) 第2回口頭弁論
2016年3月9日(水)13:30〜 東京地裁522号法廷
12:00〜13:00 厚生労働省前行動  14:00〜16:00 報告集会(弁護士会館 1005室)

水俣病食中毒調査義務付け訴訟(佐藤英樹氏原告) 東京高裁に控訴

 本年1月27日、東京地裁民事第38部(谷口豊裁判長、平山馨裁判官、馬場潤裁判官)は、水俣病食中毒義務付け訴訟において、原告の訴えを全て否定した判決を言いわたしました。
 その内容は、水俣病患者が現在も放置・切り捨てられている実態を全く顧みず、法解釈による門前払いをするもので到底承服できるものではありません。弁護団は、直ちに(1月29日付)東京高裁に控訴しました。
 今後は津田氏原告の訴訟と区別するため、この訴訟を今後は食中毒調査佐藤訴訟と呼びます。


○1.27 東京地裁判決の概要(鈴村)

<食中毒調査と報告の「処分性」について>

 判決では、たとえ食品衛生法の目的が国民の生命・健康を図ることにあるとしても、「手続の目的が国民の権利保護にあることと,これを目的とする個々の手続に処分性が認められるか否かとは,別次元の問題」である、として食衛法に規定されている手続の全てが、国民の権利義務の形成(処分性)につながるわけではないとしています。
 まず、保健所から県知事、厚生労働大臣への報告について、これらは行政間の行為であって、国民の権利義務を形成・範囲確定するものではなく処分性は認められない、と言います。
 そして「(食衛法によって)衛生上の危害が発生することを防止するために個別の国民に対して行われる上記の『規制』とは、直接的には、販売の用に供する食品等の流通、製造等の禁止に関する諸規定と、これらに違反した場合に発動される(中略)汚染食品等の規制であり」「これに対し、食中毒調査は,同法第10章の『雑則』の中に置かれており、上記の各規制を講ずるための前段階としての情報収集の手続として位置付けられているものと解され、食中毒調査の対象となることについて、その後になされ得る上記の各規制行為から離れて独自の法的権利性を付与されていると解すべき法令上の根拠は見出せない」と食中毒調査を位置づけます。
 食中毒調査は、後の製造・販売規制のための前段の作業であり、調査そのものが中毒患者の生命・健康を保護するものではないので、食中毒患者に何らかの権利や法的地位を付与することはなく、処分性は認められないとしています。
 2013年4月の溝口訴訟最高裁判決によって、52年判断条件が否定され、新たな認定基準の策定が要求されていることについては「食品衛生法上の食中毒調査の手続と、原告がそれに関連する行政手続であると主張する水俣病の公健法認定に係る手続との間には、法令上、直接の関連性が見当たらず」として、食中毒調査による水俣病実態把握の意義を無視しました。
 谷口裁判長は、調査・報告の義務付けの訴えは、不適法という判断をして却下しました。

<不作為の違法確認について>

 住民調査を行わないことは違法であることを確認する訴えについても、このような訴えをするためには「原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される」と述べています。  そして、原告の訴えは「単に行政庁の不作為を取り上げてその違法の確認を求めるにとどまり」、不作為確認を求める原告には訴えの利益がないとして、訴えを却下しました。

<佐藤さんの受ける損害について>

 原告は、食中毒調査によって、食中毒(水俣病)患者として、早急かつ適切な保護がなされる権利があると主張していました。  また、適切な水俣病像が作られていないため、自分が食中毒患者であるか否かも確定できず、何十年も焦燥感や不安感を持たされ続けている、と訴えました。
 これに対して、東京地裁は「食中毒調査が、その本来的目的である汚染食品等の規制のために必要な情報収集手段であることを離れて、調査の対象者が食中毒患者であるか否かを確認すること自体を食中毒患者等に対して法的に保障してこれを保護しているとまで解すべき法令上の根拠は見出せず」と言い、食中毒患者が調査を受ける権利を否定しました。
 食衛法のによる調査は、「食中毒患者の詳細な病像や患者発生状況の詳細までをも把握しようとしているとは考え難い」として、「仮に食中毒調査の過程において、食中毒患者の病像や患者の発生状況に関する情報が知れることがあり得るとしても、それらは、食中毒調査に伴つて反射的、副次的に得られる範囲の情報にすぎないと考えられる」と、食中毒調査で得られる情報について、食中毒患者に利益・効果を過小評価しています。
 食衛法は食中毒になってしまった患者を救護するものでなく、その後の補償等は別の法令や措置によって対処される事項であり、その実態解明についても「食品衛生法に基づく食中毒調査ではない健康調査等によっても、患者の事後的な補償に資する情報の収集は可能であると考えられる」と無責任な判示をしています。
 原告の主張する損害は「食衛法上で保護される利益」でないとして、訴えを棄却しました。

<水俣病の事実に向きあわない東京地裁判決>

 法によって義務付けられている調査を、60年間も放置・拒否されていることに、何も問うことができないのか、という素朴な疑問に、判決は向かい合おうとしていません。
 たとえ、水俣病になってしまった後の保護、補償については、他の法令によるとしても、そもそも、水俣病にならないよう、被害が拡大しないようにする役割が食衛法にあります。
 早急に対応すべき措置の「前段」の食中毒調査をしていないから、数万単位の患者をだしながら、その病像も被害範囲も不明という、先の見えない状況となっている事実を見ようとしません。必要な調査もせず、単に患者が声を上げられる状況ではなかったことを悪用して、昭和35年には水俣病は終焉したと流布し、その後の被害拡大の一因となりました。
 判決では、食衛法以外の調査でも、必要な情報を得ることができると言っていますが、いくら患者・住民が住民調査を訴えても、環境省も厚生労働省も拒否を続けるから、この訴訟を起こしたのです。判決は食衛法の意義を、極めて限定的に捉えています。
 行政の責任を断罪したチッソ水俣病関西訴訟(2004年最高裁)において、水俣病に早急に対応し住民の生命・健康を守るためには、省庁をこえて国全体で、法を積極的に活用することを指摘されたのに、完全に忘却しています。
 再度強調しますが、水俣病確認当時から、行政には、その詳細な病像や汚染の範囲状況を把握する、方法も権限もあったのです。やれないのではなく、やらないのです。
 このような判決を放置できません。控訴審や津田訴訟、その他の活動を闘い続ける所存です。

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