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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2016/06/26

チエの話 (ちえのわ ) (その57)

○水俣病食中毒調査義務付け佐藤訴訟 控訴審判決
 2016年7月21日(木)13:20〜 東京高裁822号法廷
  12時〜13時 厚生労働省前行動
  15時〜17時 報告集会 弁護士会館 1002号室

○津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟) 第4回口頭弁論
 2016年7月27日(水)13:30〜 東京地裁522号法廷
  12時〜13時 厚生労働省前行動 14時〜15時 報告集会(弁護士会館)


○水俣病食中毒調査義務付け佐藤訴訟 控訴審 結審

 東京高裁での審理は、5月31日の第2回口頭弁論において結審しました。
 一審判決は、行政が住民調査を拒否し水俣病患者を切り捨てているという現実を顧みず、硬直した法解釈(食衛法に基づく調査は、個々の国民の権利を形成するものではない)による門前払いという、不当なものでした。
 そこで控訴審では、法治主義の理念や憲法に立ち返って、この一審判決を批判してきました。

<控訴人(患者側)第1準備書面の概要>

・食中毒調査拒否は憲法違反
 憲法25条2項には「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と明記されています。「公衆衛生」とは、漠然とした抽象的なものではなく、個々の国民の生命と健康を保障するためのものであり、それは基本的人権の最も基礎となるものです。
 この憲法25条2項の要請をうけた、食衛法では第1条に「国民の健康の保護を図ることを目的とする」と法の目的を掲げて、以後に「公衆衛生の向上及び増進」に必要な諸規定を定めています。食衛法第58条に基づく食中毒調査と報告は、食衛法に基づく様々な施策を講ずるための、最初で最も基本的なデータを得る作業です。
 ところが、国・熊本県は、水俣病事件の「公式確認」から60年間を経た今に至っても、この住民調査をすることを拒否続けています。
 そして、チッソの有毒排水垂れ流しを12年間も放置して、汚染を不知火海全体に広げた上に、何の医学的・科学的根拠もない認定基準をもって水俣病事件の被害を矮小化して、不知火海沿岸住民47万人の、一人一人の生命と健康を、危機と不安に落とし込んでいます。
 これは単に憲法25条2項だけでなく、第11条基本的人権、第13条幸福追求権、第25条生存権への直接の侵害です。
 また、水俣病患者として認められないことによる、あるいは水俣病患者として認めさせるための経済的な負担・損害も大きく、第29条の財産権も侵害されていると言えます。
 さらに、第1準備書面では、住民・患者が再三にわたって住民調査を要請して来たのにもかかわらず、これを行政が拒み続けることは第16条の国民の請願権を無視するものであり、しいては第12条に規定する権利を保持するための国民の努力義務、をも踏みにじるものであると主張しています。
 食品衛生行政を統括する厚生労働大臣以下、厚生労働省・熊本県の職員は、日本国憲法を尊重し(第99条)、憲法の理念に基づいた行政がなされ、その「福利は国民がこれを享受」するものです。しかし、水俣病事件の被害者は、この60年間基礎的な調査もされず、放置され続け、福利を享受しているとは到底いい難い状況に置かれています。
 すなわち水俣病事件への行政の対応は、憲法違反まみれなのであり、早急にこれを解消する必要があります。
 また、政令に定められた行政は、誠実に実施されなければ、法治国家の体をなしません。

・裁判所の姿勢を問う
 三権分立の立場では、行政に明らかな違憲・違法状態があった場合は、司法には、その状態を解消する役割があります。
 しかし、東京地裁(谷口豊裁判長、平山馨裁判官、馬場潤裁判官)は、この憲法違反・法治主義違反に対して何ら解消する手立てを尽くさず、むしろ行政の60年の放置・放任を煽る判決をなしました。
 準備書面では、この判決は明らかに日本司法の三権分立主義に違反し司法の失態である、と東京地裁の判決を厳しく批判しています。
 そして最後に下記のように、準備書面を結んでいます。

「たとえてみれば、火事が発生していない時点で、市民に消防署に対する消防出動請求権利があるか否か、更には消火作業請求権利があるかないか、は講学上の議論が分かれるかも知れないが、現に火事が発生して、炎焼・延焼の危険が現実化し、消防署の消火作業しか、延焼を阻止する手段がなく、市民も消防署の消化活動を渇望している時には、住民の消防署に対する消火作業の請求権が認められると同じように(現在の明確な危機に対する権利発生)、水俣病事件では、60年間の被控訴人の調査拒否事態に加え、現在も諸保健所長は水俣病発生を認識しており、その上、現実に医師からの患者発生の届け出がなされている事態では、被曝露地域の住民には、調査請求権が発生しているのである。」

<控訴人第2準備書面の概要>

 今年は5月1日前後に、マスコミ各紙が「公式確認」から60年の特集記事を組みました。様々な角度からの取材や記事がありました。
 しかし、いずれも、水俣病事件は依然として未解明・未解決であり、多くの住民が今なお、補償・救済を訴え続けている、と伝えています。
 第2準備書面では、これらの記事・社説を証拠として挙げて、水俣病事件は現在進行形の事件であり、食衛法に基づく調査は、今正に必要であることを訴えています。

<わずか2回の口頭弁論>

 水俣病患者が切り捨てられている現状に対する審理もなく、わずか2回の口頭弁論で結審し、2ヶ月後の判決言い渡しであることから、高裁でも厳しい判決が予測されます。
 しかし、私たちは決して諦めません。権利は、具体化・実現させてこそ権利です。そしてそれを実現化するのは、私たちの不断の努力しかありません。

○5.25 津田訴訟 第3口頭弁論報告

 津田訴訟で主張していることも、基本的には佐藤さん原告の訴訟と同じです。
 加えて津田訴訟では、原告が医師の立場から、医師には報告義務あり、患者の治療や保護が期待されており、この責務を全うするためにも住民調査を要求する権利があると主張しています。
 法廷後の集会では、津田敏秀医師のユニークな発言がありました。
 つまり、国家とは、自然としてあるものではなく、人為的な統計(人口や国土の把握)と行政行為で成り立っている。
 その行政官のなす行為を定めたものが行政法であり、もし行政法で定められていることをしなくてもよい、そして誰もそれを要求できないとしたら、行政官は何もしない。これはすなわち、国家の破壊である。
 津田医師は、今後“愛国者”として5月の佐藤東京地裁判決と対峙していく、と決意を表明していました。

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