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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2016/12/30

チエの話 (ちえのわ ) (その59)

○2016年12月13日 津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟) 東京高裁に控訴
 60年以上の国の違法を放置する地裁の不当判決を許さない


○2016.12.7 今ある水俣病の被害から目をそらす、不当な津田訴訟 東京地裁判決

 去る2016年12月7日、東京地裁(古田孝夫裁判長、大竹敬人裁判官、大畠崇史裁判官)は、食衛法に基づく食中毒住民調査を求める訴えを退け、国や熊本県・鹿児島県の60年以上にわたる水俣病の違法な放置を継続させる判決を、言い渡しました。

<国民の命と安全を守らない法解釈>

1.調査の処分性について
 食衛法に基づく住民調査について、東京地裁は「食中毒の原因となった食品等及び原因物質を追及し、当該食品等の微生物学的又は理化学的等の観点からの特性等を把握するために行われるものであって、それ自体が直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものでない」と判示しました。
 また、保健所長から県知事、そして厚生労働大臣への報告義務については「いずれも行政機関相互の行為であり、それ自体が直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものであることをうかがわせる法令上の定めは見当たらない」と判示しました。
 従って、食中毒調査と報告には「処分性(国民の権利義務を決定)」がなく、国民には調査をするよう義務付ける訴訟を起こすことができない、と原告の訴えを退けました。

 しかし、水俣病のように大規模な環境汚染を介した、人類が初めて経験する食中毒事件では、その実態調査を行い、病像や被害範囲を正しく把握しなければ、適切な対応策を設計することはできません。また、それが行政区画をこえるような場合には、国がそれを把握し対策を立てなければ、大規模な食中毒事件の発生・拡大を抑えることはできません。
 食衛法の住民調査は、行政がその施策するための第一歩であり、これがなければ、その後の対応も間違ったものになり、地域住民はいつまでもその危険に曝され続けることになります。水俣病がその代表例ではありませんか。
 食衛法の住民調査は、私たちの命と健康の問題に直結しています。

2.違法確認の利益について
 判決では、調査や報告が(食中毒患者)の届出をした医者個人(原告)の何らかの個別的利益を保護すべきものする趣旨を含むものと解するのは困難である」(調査・報告がなされないことによって)何らかの権利若しくは法律的地位を有すること又はこれらを侵害されることをうかがわせるその他の法令上の根拠も見当たらない」ので、違法確認の利益がなく、これも原告には提訴する権利はないと、訴えを却下しました。

3.原告の受ける損害について
 そして、そもそも原告には食中毒調査・報告によって守られる権利がないのだから、その不作為による損害も存在しないと判じました。

 これらの条文解釈は、直接の被害患者である佐藤英樹さんが原告となった訴訟(2016/01/27東京地裁判決、2016/09/21東京高裁判決)でも、全く同じものでした。
 これでは、行政がなすべきことをいくらサボり続けても、それがたとえ法に明記されていても、誰もそれを正せないことになります。

<東京高裁に控訴>

 佐藤さんが原告の2016年1月東京地裁判決では、住民調査は食衛法の「雑則」の中に置かれており、単なる「情報収集の手続」であり、それ独自に法的権利性はないと判示しています。
 法の何番目に書いていあるから、軽んじていい訳でもなく、「情報収集」こそが最も最初に行う重要な施策です。
 行政の主張や司法の条文解釈は、食衛法の存在意義「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする。(食衛法第1条)」を形骸化させるものです。
 また、憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」「2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」にも、完全に違背しています。
 食衛法による食品の安全確保は、単に水俣病患者のみではなく、私たちの日々の安全な生活の確保に関わる問題なのです。

 弁護団は、2016年12月13日、東京高裁に控訴をしました。また、法廷外の活動も積極的に勧めていく所存です。
 是非これからも、多くの方々のご注目、ご支援を願います。


○「水俣病は食中毒ではない!?」発言

最近になって、国や県が「水俣病は食中毒ではない」と発言するようになってきました。
 2016年11月16日、新潟水俣病第3次訴訟控訴審で国・新潟県側の証人に立った滝澤行雄氏は、食中毒とは短期間に大量の有害物を食べて発病したものであり、長期にわたって汚染された水俣病は食中毒ではない、と証言しました。
 また、水俣病被害者互助会の国賠訴訟第一審(熊本地裁2013/11/22)では、国・熊本県側証人の中村好一氏(自治医科大)が、食中毒とは急性のものをいう、と証言しています。
 そして、環境省の佐々木孝治特殊疾病対策室長は、水俣病は食中毒という認識があるのかとの質問に「食中毒とは、腸炎ビブリオのような・・・ゴニャゴニャ」と、まるで環境汚染を介した場合は食中毒ではない、とばかりの回答をしました。(2016/12/01 参議院議員会館での院内集会にて)
 さすがに滝沢・中村氏ほどの馬鹿な発言はしませんでしたが、最後まで水俣病事件が食中毒事件であることを認めようとはしませんでした。
 また、前室長の小林秀幸氏は、食中毒か否かは厚生労働省の決めることだ、という発言をしていました。
 水俣病患者には急性劇症型の方もいます。滝澤氏や中村氏は、水俣病には食中毒とそうではないものがあると言うのでしょうか。
 例え、短期間であろうと長期間であろうと、その経路がいかなるものであろうと、有害物資に汚染された食品を食べて健康障害をおこせば、それは食中毒です。食衛法でも、そんな区別はしていません。また、役所が勝手に、これは食中毒ではない、と決めるものでもありません
 滝澤氏は、かつて国立水俣病総合研究センター(国水研)の所長や、水俣市の助役を勤めた人物です。佐々木氏は、もちろん国の水俣病担当の現トップです。
 彼らの発言は、行政が水俣病について、医学的にも法的にも、全く無知であることをさらけ出しています。彼らには、水俣病事件に対応する能力も意思もないのです。

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