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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2017/4/14

チエの話 (ちえのわ ) (その60)

○津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟) 控訴審 第2回口頭弁論
 2017年5月24日(水)13:30〜 東京高裁 511号法廷
 *12時〜13時 厚生労働省前行動 *報告集会(場所、時間は未定)


○2017.2.27 第1回口頭弁論報告

 今年初めての通信になります。この間も、事務局では、津田訴訟対策や他の水俣病関係訴訟の傍聴などの活動を続けてきましたが、なかなか通信を発行する余裕がありませんでした。

 去る2月27日に津田訴訟控訴審(東京高裁第5民事部)の第1回口頭弁論が開かれました。
 私たちは当日までに、控訴理由書と第1準備書面を用意しました。ここで、佐藤英樹さん原告の訴訟を含めた過去3回の東京地裁・高裁の判決を厳しく批判して、もはや裁判所にはこの訴訟を審理する資格がないことを主張しました。
 これに対して被控訴人の国・熊本県・鹿児島県は、単に控訴の棄却を求める、という答弁書を出したのみでした。
 口頭弁論当日には、津田敏秀控訴人(原告)と山口紀洋代理人による意見陳述がありました。そして、加害者である国の一機関でありながら、水俣病事件の違法状態をを放置し続ける裁判所に、本件訴訟を審理する資格がないとして、裁判官の除斥、忌避を申し立てました。
 このため、除斥、忌避に対する審理が東京高裁の第7民事部において続いていたため、食中毒調査に関する訴訟は、3月10日まで止まっていました。

<2.27 控訴人意見陳述の概要>

 現代社会において行政や行政による公権力とは、行政法によりすべきこととやってはいけないことが規定されて、初めてその存在が正当化されます。
 ところが、その行政法を守らなくてもよい、という判決が、東京地裁と東京高裁において3回も繰り返されました。しかも姑息なことに、はっきり「守らなくてもよい」とは言わず、行政が行政法を守らなくてもすむように、忖度した判決でした。
 つまり、国民は、たとえ、その法律違反の関係者であっても、行政に対して法律を守るように訴える権利がない、というのです。しかも、では具体的に誰がどうしたら、これを是正することができるのか、一言も口頭でさえ触れていません。そして、行政官のほとんどは選挙によって変えることができません。
 これでは、誰でも行政を名のった瞬間に、匿名でやりたい放題ができる、という状況になってしまいます。
 水俣病事件では、行政法が守られなかったために、未曾有の人的被害と経済的損失が、今なお生じているのに、裁判所は未だに、行政に法律を守らせることができないと言ってます。
 その一方で水俣病事件では、現存する行政法に基づく調査を、誰もが、どの組織も求めています。それは単に患者団体だけでなく、国会、県知事、市議会、など社会のあらゆる層にいたります。三権の中の、行政(中央公害策審議会など)と立法(国会や市議会など)が住民調査を求めているのに、ひとり司法だけが、根拠もなくこれを否定するのは、明らかに反社会的行為と言えます。
 このような国の運営や行政の存在を危うくするような判決を放置することはできず、控訴を決断しました。
 控訴審では、裁判官や国の代理人には、次の点に関して、自分の考えを法廷の場において、明確に示すことを要求します。

 1.行政が行政法を守らないために、未曾有の人的被害や経済的損失を伴う社会的大混乱が、60年以上も続いています。現存する行政法を守らせれば、現在の大混乱は、そのほとんどが収束するとは考えないのか。

 2.この違法状態を解消するために、いったい誰が言えば、行政に行政法を守らせることができるのか。

<控訴理由書・第1準備書面の概要>

1.裁判官たちの責任
 2004年のチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決で、チッソはもとより、国家・熊本県も水俣病加害者として断罪され、判決は確定した。
 しかし、以来今日まで13年間、加害者国・熊本県は、水俣病対策に対して、何らの改革行政をしていない。被害者を水俣病と認めない2009年水俣病特措法という弥縫策のみである。しかもこの特措法は期限立法で、3年間で終了してしまっているのであるから、現在は国・県は水俣病法現象に対して、特段何もなしていない。かつ現在も、水俣病被害者・国民に対して、加害者としてなすべき事を一切せずにいるばかりか、被害者を切り捨てることに狂奔し、水俣病事件の終結を画策しているのであるから、加害者性はさらに強くなっているとすら言える。
 国・県が現在でも加害者であれば、国の一機関である本案事件の原審である東京地裁、東京高裁および両裁判所の裁判官は、民事訴訟法第23条1項1号の、国との「共同義務者」であるから、本来は本件水俣病裁判から除斥されるべきで、本訴訟に関して裁判権限を有しない。
 このような主張をすると、日本には水俣病事件を裁判する裁判官はいなくなり、現実的な主張でないという反論がでてくるであろう。
 しかし、現実的な対処の方法は幾らでもあり、まず国・環境省が公健法の運営の適正さを保持すべきである。公健法の制度趣旨は、まさに迅速・公平を旨としている。審査会での水俣病認定棄却が司法で正されることがないようにすべきであり、適正認定手続さえ保持されれば、長期・偏頗な裁判を提訴する被害者はいなくなるのである。

2.根拠なき認定基準
 食衛法に基づく実態調査が未だに行われず、水俣病の科学的・医学的なデータが集積されないため、行政の根拠ない思い込みによるS52年判断条件と2014年新基準による、患者切り捨てが続いている。
 これは、水俣病認定とは罹患の客観的な事実の確認、と判示した2013年溝口訴訟に違背するものである。食衛法による実態調査なくして、客観的な水俣病像はつくれない。

3.憲法25条違反
 憲法25条2項は、国に対して「すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」としている。しかし、不知火海沿岸住民47万人に対して健康調査は実施されておらず、これは憲法違反である。

4.立法不作為
 国会でも水俣病事件調査の問題は60年以上も議論されているが、実際には、行政が法に基づく調査を拒否していることを黙認している。
 これは憲法11条、13条、25条2項違反であり、このような事態を是正する法律を立法・改正する責任がある。

<除斥、忌避の申立の却下決定>

 裁判官に対する除斥、忌避の申立ては、東京高裁第7民事部(菊池洋一裁判長、佐久間政和裁判官、工藤正裁判官)において審理がなされていましたが、3月10日、忌避、除斥いずれも却下の決定がありました。
 これを受けて、食衛法に基づく食中毒調査に関する審理が再開されました。
 闘いの舞台は、再び東京高裁第5民事部に戻り、第2回口頭弁論は5月24日13:30です。

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