トップ > チエの話一覧 > チエの話61
溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2017/6/22

チエの話 (ちえのわ ) (その61)

○津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟) 控訴審
  判決 2017年7月12日(水)13:15〜 東京高裁 511号法廷
  *12時〜13時 厚生労働省前行動
  *報告集会 清和ビル1A 15:30〜17:30
   (東京・水俣病を告発する会 共同事務所)
   東京都千代田区神田淡路町 1-21-7(連合会館東隣)
 なお、日本特派員協会での記者会見が入った場合には、報告集会の時間は1時間後にずれます。


○2017.5.24 第2回口頭弁論(結審)報告

 津田訴訟控訴審は、5月24日の第2回口頭弁論で結審しました。弁護団では2つの準備書面(第2、第3)を提出して、医師権(食中毒を報告した医師の権利)と立法不作為違法(法の不備を是正しない責任)に関する審理を続けること、および控訴人(津田敏秀医師)の本人尋問を要求しました。
 にもかかわらず、永野厚郎裁判長は、要求の全て拒否して、判決日を7月12日としました。

<第2準備書面の概要>

 日本国憲法は25条第1項に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、そして25条第2項には<「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と明記しています。さらに11条では「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」と宣言しています。
 基本的人権の基礎である生存権(生命・健康・生活の保全)を、食品衛生の立場から実現させるために作られたのが食品衛生法です。
 ところが、水俣病事件では、この食品衛生法で義務付けられている食中毒事件の住民調査が60年間以上にわたって拒否・放置され続けています。このため、不知火海沿岸の47万人の住民は、自分の住む地域がメチル水銀に汚染されているのか、その被害が自分の身体に出ていないのか(感覚障害は自分だけでは認識しがたい)、自分の体調不良は水俣病に起因するものではないのか、が不明のまま、今だに生命・健康の危機にさらされ続けています。
 これは、まぎれもない憲法25条、11条に対する違反であり、生存権に対して直接の侵害がなされています。
 裁判所には、この生存権に対する侵害行為を廃し、その権利を保護・回復する責務があります。しかし、東京地裁はその責務を放棄して、生存権が侵害されている違憲状態を追認した判決を言い渡しました。東京地裁判決は、明らかな違憲判決です。
 また、もし、法の条文上に憲法の目的を実現できない不備があるならば、それを是正する責任が、国会にはあります。
 2004年のチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決によって、国や熊本県の加害責任が確定していますが、裁判官たちにも直接の責任があります。
 漁民たちの命をかけた抗議行動(1959年のいわゆる「漁民暴動」)で漁民が起訴されたことに対して、その抗議行動の正しさを認識して、直ちに公訴棄却の判断をしていれば、その後の9年間にわたるチッソ水俣工場の排水垂れ流しを防止することができたのです。さすれば、今日のような広範囲な水俣病被害を防ぐことができました。
 裁判官には、水俣病事件に対する直接の責任を認識して、真に頭を使って大局観をもって審理する責務があります。

<第3準備書面の概要>

 第3準備書面では、違法確認(住民調査をしないことは食衛法違反であることの確認)の問題を中心に主張しています。
 前審の東京地裁判決では、津田氏が違法確認の訴えをするためには、食品衛生法による食中毒調査をしないことによって、津田氏の権利または法的地位が侵害され、確認判決を得なければこれを除去できない場合でなければならない(即時確定の利益)。しかし、そもそも食品衛生法には、食中毒患者を報告した医師に対して、個別的な権利が発生する条文や趣旨はない。よって、津田氏には違法確認を訴える権利がない、と判示して、違法確認の請求を却下しました。
 しかし、水俣病事件においては、その義務行政庁である国・熊本県・鹿児島県が食中毒調査をせず、水俣病に関する医学データを蓄積できないため、公式確認から60年以上も経た今でも、その病像さえ確定できない混乱状態が続いています。やむなく患者が裁判に訴えて、3度にわたる最高裁勝訴判決を得ても、義務行政庁は何ら改善をしようとしません。もはや事ここに至っては、公衆衛生上の解決手段を医師に求めるしかなく、ここに「医師権」が発生する由来があります。
 したがって、水俣病事件のこの歴史・実態を審理しなければ、津田氏に「即時確定の利益」があるか否かの判断はできるはずがありません。しかし、東京地裁裁判官は、何ら水俣病の実態に関する審理をせず、机上の空論によった判決を言い渡しました。東京高裁は原審の地裁判決を取り消すべきです。

<津田氏・控訴人意見陳述の概要>

 水俣病事件は、1956年11月には魚介類を原因食品とする食中毒事件であることを、国・熊本県も認識していました。しかし、食品衛生法に基づく措置は、漁獲禁止措置も食中毒調査も実施されませんでした。
 また、裁判所も、60年以上も続く法律違反を解決しようとしません。裁判所は、行政は法律を守らなくてもよい、と言うのでしょうか。
 最後に津田氏は「これまでの、この裁判の一連の経過を知った人々は、皆こう思うでしょう。なあーんだ、裁判所や裁判官と言ったところで、法律は守らねばならない、法律を守らせようと、本気で考えている人は、ほとんどおらず、体の良い逃げ口上だけを考える人達ばかりなんだ、と。そして国民は考えるでしょう。凡庸な人によって国家は危うくされる。これでは、法で形作られた国家概念は崩壊すると」と結びました。

トップ > チエの話一覧 > チエの話61