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溝口訴訟弁護団東京事務局ニュース 2017/8/3

チエの話 (ちえのわ ) (その62)

○津田訴訟(水俣病食中毒調査義務付け訴訟)は、7月14日に最高裁へ上告しました。


○7/12 東京高裁判決

 7月12日、東京高裁第5民事部(永野厚郎裁判長、三浦隆志裁判官、筈井卓矢裁判官)は、東京地裁に続き、私たちの訴えを退ける判決を言い渡しました。
 判決理由が読み上げられた直後、津田医師が「あなた方は、水俣病事件混乱の責任を負っているのだ」と諫めましたが、裁判官たちは津田医師とは目も合わせず、そそくさと法廷を出て行ってしまいました。
 判決は、表面的な条文解釈のみで、水俣病事件の被害が61年間以上も放置されている実態を全く顧みない、不当なものです。
 食衛法は基本的人権の根幹である、食品の安全や公衆衛生の保護を目的とした法律です。
 高裁判決は、行政が法律違反を続けることを容認したうえに、日本国憲法25条2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」にも反するものです。
 また、水銀条約に盛り込まれている「水銀及びその化合物への暴露によって影響を受ける人々に対する予防、治療及び保護」に対しても、その期待を裏切るものです。
 これで司法は、佐藤英樹さん原告の訴訟(東京地裁2016.1.27、東京高裁2016.7.21)と、本件訴訟の東京地裁(2016.12.7)に続き、「行政が法を守らなくても、誰もこれを問えない」と4回も宣言したことになります。

 私たちは、直ちに最高裁へ上告しました。
 日本国憲法の3本柱である基本的人権の保護の実現に向けて、負けることはできません。
 今後もより多くの、ご支援、ご注目をお願いします。

<控訴審判決の概要>

1.調査の義務付けについて
 高裁判決は、食衛法に基づく調査・報告について、それは「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものにはあたらず」「行政処分」には当たらないとしました。
 よって個々の国民が、調査の義務付けを提訴することはできない、と判示して訴えを却下(門前払い)しました。

2.違法確認について
 この訴訟では、60年以上も法律違反が続いているという事実を確認する訴えをしていました。
 違法確認の訴えをするためには、その法律違反によって訴えた人の権利が侵害されていること、違法確認をしなければその権利侵害が解消されないこと、という条件(即時確定の利益)が必要だそうです。
 しかし、食衛法には食中毒患者の届出をした医師(津田医師)に対して、住民調査に関して何らかの権利や法的位置を与える条文はないので、津田医師には訴えの利益がないとして、東京高裁は、これも却下しました。

3.国家賠償について
 東京高裁は、そもそも食衛法の調査に関して、届出医師は何の権利も法的位置もないので、当該行政庁は届出医師との間で負うべき法的義務はないと判示し、よって国家賠償請求の理由はないとして、国家賠償の訴えを棄却しました。

4.司法も水俣病事件に責任を負うことについて
 2004年のチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決で、チッソはもとより、国家・熊本県も水俣病加害者として断罪され、判決は確定しました。
 私たちは、司法も国の一機関であり、また水俣病事件に関して、実際に司法が過去に被害者には寄り添わず国や熊本県を擁護してきた歴史を指摘して、裁判所(東京高裁も含めて)もチッソ・国と「共同義務者」であり水俣病事件に責任を負っていること、本件訴訟を審理する資格がないと主張をしてきました。
 これに対して、高裁判決は、東京地裁の裁判官は国と「共同義務者」の関係にない、とのみ判示しただけで、私たちの主張を退けました。

5.潮谷義子前知事の住民調査計画について
 控訴審では、熊本県でさえ住民調査の必要性を理解しており、現に前の潮谷知事時代に不知火海沿岸47万人を対象とした調査を立案していたことを指摘しました。
 しかし、高裁判決は、この調査計画は食衛法に基づく調査を意図していたわけではないので、本件とは関係ないと判示しました。
 なお、潮谷前知事が食衛法に基づく調査を実施しなかったのは、単に食衛法の規定を知らなかっただけ、誰も前知事にアドバイスをしなかったことが、津田医師と潮谷前知事との会談で明らかになっています。

6.調査結果が直接国民の権利に結びつくことについて
 水俣病の認定基準は、今だに科学的・医学的な根拠をもった基準がなく、環境省の恣意的な基準による患者切り捨てが続いています。
 控訴審で私たちは、科学的・医学的な根拠がないのは、適切な食中毒調査が為されていないためであり、食衛法に基づく食中毒調査の結果を活用することによって水俣病の適切な基準を確立することは、国民の権利義務を直接形成する、という主張をしてきました。
 高裁判決は、食衛法の調査は「行政の適正な運営方針の基礎資料を得るため」のものであり「それ自体が直接国民の権利義務を形成する性質ものではない」と判示しました。
 しかし、水俣病事件は「行政の適正な運営方針の基礎資料」を得ていないから、その行政の対応が混乱し、今だに多くの被害者が苦しんでいるのです。
 高裁判決には、現実の世界で起きている事実に向きあい、これを改善していこうという意志が、全く感じられません。

7.水銀条約との関係
 水銀条約16条1項Cにおいて、締約国は「水銀又は水銀化合物への曝露によって影響を受ける人々に対する予防、治療及び保護のための適当な保健サービスを促進すること」が奨励されています。
 しかし、東京高裁判決は「原審判決が同条約に違反するとは認められず、控訴人(津田医師側)の主張は失当である」とのみ判示して、具体的に裁判官たちがどのような審理をしたのかについては、全く触れていません。


 今年は、水俣病事件に大きな影響を及ぼす判決が続きます。これらの訴訟についても、私たちは強い関心をもって行きたいと思います。

○川上さん公健法不支給取消訴訟 最高裁判決
 9月8日 15:00〜 最高裁第2小法廷

 チッソ水俣病関西訴訟最高裁(国賠訴訟)で勝訴した川上敏行さん。その後に行政認定されましたが、熊本県は国賠訴訟で決着済みとして、公健法の支給を拒否しています。
 福岡高裁では、川上さんが勝訴しています。

○11月29日 15:00〜 東京高裁101号法廷
 新潟水俣病 認定義務付け訴訟 控訴審判決

 公健法による認定義務付けを求める訴訟。新潟地裁判決は、同居家族に認定患者がいる原告しか認めない、という納得のできないものでした。

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