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環境省申入書 2013年4月26日

2013年4月26日

環境大臣  石原伸晃 殿

水俣病溝口訴訟原告     溝口秋生
上記訴訟弁護団 代表 弁護士 山口紀洋

申 入 書

 4月16日の最高裁判決により、私・溝口秋生の勝訴が確定しましたが、これをもって、私の裁判の目的が達成されたとは考えません。なぜなら、この裁判は私だけのものではなく、すべての未検診死亡者、未認定患者を代表する裁判であり、患者の放置・切り棄てを続ける環境省および熊本県の責任を追及するとともに、認定行政を根本から改めさせるのが目的だからです。
 そこで、私は勝訴原告として、環境省および熊本県の違法な認定行政をただす責務があると考えますので、以下の申入れを行います。

1 環境大臣が、原告の溝口秋生に面会して直接謝罪するよう求めます。

 今回の最高裁判決により、チエが水俣病であることについて最終決着がつきましたが、チエの認定申請から39年、亡くなってから36年が経過しました。これだけの年月がかかったのは、もっぱら環境省および熊本県が一体となって、チエの水俣病認定を違法に拒否し続けたからです。
 環境大臣は、今日までチエの水俣病認定を遅らせてきた責任を認め、原告の溝口秋生に面会して直接謝罪すべきです。

2 環境省が平成25年4月18日付で発表した「水俣病の認定に係る最高裁判所の判決について」に抗議するとともに、即時の撤回を求めます。

 貴省は、最高裁判決のわずか2日後の4月18日に、判決を正確に分析することはもとより、52年判断条件の内容や運用について何ら検証することもなく「水俣病の認定に係る最高裁判所の判決について」(以下、「環境省見解」、「当該見解」といいます)、を発表しました。
 当該見解は、「52年判断条件は否定されていない」と述べるのみであり、水俣病認定行政の抜本的改革を求める最高裁判決を楼小化するのみならず、判決などなかったかのような無視する態度を表明するものであって、到底認めることはできません。
 以下、環境省見解がいかに誤ったものであるか、その理由について詳しく述べます。

 溝口訴訟上告審における、4月16日の最高裁判決は、環境省及び熊本県に対して、これまでの水俣病認定行政の全面的・根本的な見直しを求めるものであり、判決の範回は水俣病認定の法的性質および認定のあり方、さらには認定基準の内容および運用など、認定審査体制全般に及ぶものでした。

 すなわち、熊本県が溝口訴訟で、「救済法は、認定申請者が水俣病にかかっているか否かの判断を一般的定説的な知見に基づく医学的診断に委ねている」「処分行牧庁の審査の対象は、一般的定説的な知見に基づいて水俣病にかかっていると医学的に診断することの可否である。医学的な診断が得られない場合における個々の症候と原因物質との因果関係の有無の検討までは、審査の対象にならない」旨主張したのに対し、最高裁判所は、「水俣病の認定は、水俣病り患の有無という客観的事実を確認する行為であり、これよりも殊更に狭義に限定して解釈すべきではない」と熊本県の主張を明確に否定した上で、「個々の症候と原因物質との因果関係が証明されれば、水俣病と認定すベきである」「水俣病の認定に当たり、病状等の医学的判断のみならず、患者の曝露歴や生活歴および疫学的知見や調査結果などを十分に考慮して総合的に検討すべきである」と判示し、最高裁判決は熊本県の水俣病認定制度に関する理解が根本的に誤っている、と批判しました。
 最高裁の判示の重大性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。
 何故なら、認定の法的性質、認定のあり方に関する理解は、水俣病認定業務の大前提であるところ、その大前提が誤っていると指弾されたのですから、その誤った前提の上で設定された52年判断条件も、その運用も、直ちに見直さなければならないのは理の必然だからです。

 最高裁判決は具体的に踏み込んで、感覚障害のみの水俣病患者の存在を明確に認めた上に、さらに52年判断条件について、「症候の組合せが認められる場合に水俣病と認定するものであるが、組合せが認められない場合についても、諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、個々の症候と原因物質との間の因果関係の有無を判断することにより水俣病と認定すべきである」「症候の組合せが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的実証はない」と厳命しています。
 従って最高裁判決の判示は、単に、52年判断条件の「運用」のあるべき姿を示し、それに沿った運用に改めるよう求めるものにとどまりません。
 最高裁判決は、水俣病患者のなかで最も多数を占める、従って水俣病の典型的な患者である感覚障害の症状のみを有する患者について、症候の組合せに該当しないから水俣病と認定しないとする52年判断条件が、制度基準として明確に間違っていることを論理的に判示したのです。
 従って、四肢末端優位の感覚障害のみの申請者を、水俣病と認定すべき規定が必要なのです。
 さらに、症候の組合せが認められない場合に、いかに「総合的な検討」を行うべきかについては、52年判断条件にはなんらの記載がないのですから、52年判断条件は明らかに基準として根本的な欠陥があり、従って判決が判示した「総合的な検討」の実施規定を具体的に盛り込んだ内容に改訂すべきであるという判示なのです。

 以上要するに、最高裁判決は、水俣病認定の法的性質、認定のあり方に関する誤った理解を改めるよう求め、その上で、法の要請する認定基準の内容と運用についてあるべき姿を示し、それに照らして、現行の認定基準である52年判断条件の内容および運用を改善するよう求めており、これが、最高裁判決の正しい理解です。
 そうだとすれば、環境省見解が「52年判断条件は否定されていない」と述ベ、何ら見直しを行なおうとしないのは、最高裁判決を楼小化し、自らの都合のよいように曲解するものであるのは明らかであり、到底認めることはできません。
 私どもは、当該見解を出した環境省に対し断固抗議するとともに、当該見解をただちに撤回されるよう求めます。

3 4月16日付の「申入書」における要求項目(3,4,5)に対する回答を求めます。

 私どもは、最高裁判決言渡しの当日、午後9時から環境省と交渉を行いましたが(以下、「判決後交渉」といいます)、席上提出した4月16日付の「申入書」では、環境省に対して、

3 環境省および熊本県は、不知火海沿岸など汚染魚介類摂食往民の健康披害に係る悉皆調査を実施すること

4 環境省は、52年判断条件を無効とし、悉皆調査のデータに基づく適正な認定基準を策定すること

5 環境省および熊本県は、これまでの認定申請棄却処分とした全ての患者に対し、新たな基準による審査を行うこと

 を申し入れました。
 ここで、3の「悉皆調査」、4の「適正な認定基準の策定」について補足します。

@ 悉皆調査について

 4月16日付の申入書で述べた通り、水俣病公式確認から56年以上を経た今日において、認定をめぐる行政の不法がなされて来た根本原因は、環境省省および熊本県が不知火海沿岸往民の健康披害に係る悉皆調査を実施しないことにあります。
 すでに、2004年10月の関西訴訟最高裁判決の直後に、当時の潮谷県知事が、環境省に対し、八代海地域に居往歴がある者47万人を対象とした網羅的な悉皆調査を提案しているのです。
 さらに、この問題に関して、前環境省特殊疾病対策室室長大坪寛子氏は、調査方法を57年間検討中である、などという明らかに虚偽違法の発言を続けていました。調査方法については、通称・重松委員会の「水俣病に関する総合的調査千法の開発に関する研究」をはじめ、これまで環境省委託で行われてきた様々な研究が、調査手法を提言しているにもかかわらず、いまだに実施に移されず、それどころか、調査手法自体決められないというのは極めて異常な事態です。
 しかし、悉皆調査の義務は食品衛生法に明確に規定されているところであり、調査方法も、同法に具体的に子細に規定されているところです。  従って、熊本県および環境省は、不知火海往民の健康披害に係る悉皆調査をただちに実施すべきです。

A 適正な認定基準の策定について

 前述の通り、最高裁判決は、法の要請する認定基準とは何かという観点から、認定基準の内容と運用についてあるべき姿を示しており、環境省は、これに沿って52年判断条件を改め、適正な基準と適正な運用方法を新たに策定すべきです。

4 特殊疾病対策室の人員配置について

 特殊疾病対策室は環境省において、水俣病施策を直接担当する重要な部署であるところ、室長以下、担当職員がわずか1〜2年で交代するため、責任ある仕事や判断ができず、機能不全に陥っています。
 現に、判決後交渉において、私どもが52年判断条件が求める「総合的検討」の実態や、特措法による申請者が6万5千人にも上る原因について質問したのに対し、出席された室長以下職員は、なんら責任ある答弁をすることができませんでした。環境省を代表して交渉に臨んでいるという自覚や当事者意識が欠如しているのは明らかです。
 現状の特殊疾病対策室の態勢・人員配置は、水俣病問題を軽視するものと言わざるを得ませんので、大臣の見解をお聞かせください。

5 チッソ水俣病関西訴訟の勝訴後、行政認定された原告患者について

 チッソ水俣病関西訴訟において勝訴した原告で、判決確定後行政認定された患者さんについて、いまだに公健法による給付を受けることが認められておらず、また、加害者チッソは補償協定の締結を拒否しています。環境省は、1973年の補償協定調印時に、当時の三木環境庁長官が立会人を務めたことから、チッソを指導監督する立場にありながら、チッソに対し補償協定の締結に応ずるよう指導を行っていません。
 そこで、関西訴訟の勝訴後、行政認定された原告患者が公健法の給付を希望する場合には、公健法が「被害者の迅速かつ公正な保護を図ること」を根本目的としている以上、ただちに公健法による給付を認めるべきです。

6 判決後交渉の席上において申し上げた通り、以上の申入れに対し、環境大臣が5月1日、水俣病で開かれる慰霊式に出席する際に、回答書を用意された上で、私どもに口頭でも直接ご回答くださるよう求めます。

以上

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