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熊本県 申入書 2013年6月17日

2013年6月17日

熊本県知事 蒲島郁夫 殿
熊本県環境生活部水俣病審査課 御中

水俣病溝口訴訟原告     溝口秋生
上記訴訟弁護団 代表 弁護士 山口紀洋

申 入 書

1.5月17日、水俣病被害者互助会と熊本県との交渉の中で、中山広海水俣病審査課課長が「溝口さんへの謝罪は長く待たせたことであって、棄却が誤っていたことではない。資料がそろわなかったから仕方がなかった」との見解を示しました。
 この発言は、熊本県の溝口チエさんに対する棄却処分を誤りとして、チエさんの水俣病認定義務付けを言い渡した福岡高裁(昨年2月27日)、およびこれを確定させた最高裁(本年4月16日)の判決内容をねじ曲げるものです。
 また4月17日に蒲島郁夫知事が溝口秋生さんに「裁判が長年にわたったこと、認定申請を棄却したことを心からおわび申し上げたい」と謝罪したこととも対立する重大な発言です。
 そもそも資料がなかったのは、熊本県が検診を怠ったからであり、更に意図的に病院調査を放置したためです。そして、資料がそろわなかったことの責任をチエさんに転嫁して、棄却したことが誤りなのです。溝口訴訟提訴の発端となったこの事実を否定する発言は、溝口訴訟そのものを否定するに等しい言動であり、決して看過することができません。
 私どもは、この中山発言に強く抗議し、中山氏に対して発言を即時撤回し、溝口チエさんおよび遺族に対して再度正しい謝罪をしたうえで、その後に辞職することを要求します。

2.現在、熊本県と環境省は、患者や識者を排除した密室で「52年判断条件における総合的な検討の具体化」を進めています。この対応は、最高裁が認定について「この点に関する処分行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではない」と判示して、行政が勝手に要件を策定して恣意的な線引きをしてはならない、と指摘したことに真っ向から反しています。
 よって熊本県と環境省は、この密室での画策を直ちに中止するよう要求します。 そして、今後は患者や識者も加えた開かれた場で、実態調査のデータに基づき透明化された議論を進めることを要求します。
 合わせて、現在「52年判断条件における総合的な検討の具体化」を進めている環境省と熊本県の担当部署と氏名を、開示することを要求します。

3.私どもの不知火海沿岸住民の悉皆調査の要求に対して、熊本県は、国が特措法に基づく調査手法の開発中である、と回答しています。しかし、環境省・熊本県は、この調査研究の利用目的を明確にしていません。
 私どもの要求しているのは、公健法に基づく認定を医学的・社会的に適正なものにすることに必要不可欠な、住民健康のデータです。
 環境省・熊本県が「開発している調査手法」に、私どもが要求する利用目的を明示・明文化し、悉皆調査を実施するよう要求します。

4.悉皆調査について、今回熊本県は「国の行う調査研究の取り組みに協力してまいりたい」と、まるで他人事のような回答をしています。水俣病被害の実態解明のための調査が国にしかできない、という根拠は法的にも道義的にもありません。逆に被害者により近い行政として、被害の実態解明の先頭に立つ立場にあります。
 チッソ水俣病関西訴訟の大阪高裁判決(2001年)および最高裁判決(2004年)でも、国だけでなく熊本県も県条例や規則を最大限に駆使して、県民の生命と健康を守る責務があることが、繰り返し判示されています。
 現に、2004年熊本県提案「今後の水俣病対策について」や2007年「健康調査分析検討事業検討委員会報告書」において悉皆調査の必要性を熊本県も痛感し、具体的な調査方法も提言しています。この提言は、なぜ立ち消えになっているのでしょうか。
 かつて1957年に、熊本県は食品衛生法の適用を決定しながら、厚生省の「水俣湾の全ての魚が有毒化していなければ適用できない」という違法な法解釈に乗っかり、その適用を見送りました。その結果、水俣病の被害は不知火海沿岸に拡大し、今日の惨禍をもたらしたことを、肝に銘ずるべきです。

5.福岡高裁判決では「四肢末端優位の感覚障害が水俣病の最も基礎的ないし中核的な症候である」ことが確認され、最高裁判決でも「四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病の存在」が認められました。
 さらに福岡高裁判決では「所定の各症候の組合せ(編者注:52年判断条件)を満たさないときには、個別的具体的事情を総合考慮することなく棄却の判断に至っていた」「認定されるべき申請者が除外されていた可能性は否定できず」と、過去の審査で、本来認定されるべき人が棄却されていたことを指摘しています。
 そして、裁判に提出された複数の証拠(例えば「水俣病認定審査にかかる判断困難な事例の類型的考察に関する研究」「原田正純医師認定審査会資料手控え書」)から、申請者の8割に四肢の感覚障害があったことが明らかになっています。
 これらの事実を前にしてなお、熊本県が「再審査の必要はない」というのは、潜在患者の放置を今後も続けると宣言したことになり、とうてい認めることはできません。
 過去に棄却した申請者に対する再審査、および未検診死亡者に対する再調査を、強く要求します。

6.4月24日付の申入書に対する回答が、未だなされていません。今回の申入書とあわせて6月30日までに回答するよう要求します。
 何故なら、環境省と熊本県は現在「52年判断条件における総合的検討の具体化」の策謀を進行中です。このまま回答を遅らせることは、患者を決定的に不利な状況に追い込むことになるからです。

以上

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