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環保企発第 1403072号
平成26年3月7日

熊本県知事 殿
鹿児島県知事 殿
新潟県知事 殿
新潟市長 殿

環環境省総合環境政策局環境保健部長

 公害健康被害の補償等に関する法律に基づく水俣病の認定における総合的検討について(通知)

 平成二十五年四月十六日の水俣病の認定に係る最高裁判決(以下「最高裁判決」という。)においては、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年十月五日法律第百十一号。以下「公健法」という。)に基づく水俣病の認定について、「都道府県知事が行うべき検討は、大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものであるかどうかについて、個々の患者の症状等についての医学的判断のみならず、患者の原因物質に対するばく露歴や生活歴及び種々の疫学的な知見や調査の結果等の十分な考慮をした上で総合的に行われる必要があるというべきであるところ、公健法等にいう水俣病の認定に当たっても、上記と同様に、必要に応じた多角的、総合的な見地からの検討が求められるというべきである。」旨の判示がされ、総合的検討の重要性が指摘された。
 「後天性水俣病の判断条件について」(昭和五十二年七月一日付け環保業第二百六十二号環境庁企画調整局環境保健部長通知。以下「52年判断条件」という。)において「水俣病であることを判断するに当たっては、高度の学識と豊富な経験に基づき総合的に検討する必要がある」とされているところ、最高裁判決で総合的検討の重要性が指摘されたことを受け、これまでの認定審査の実務の蓄積等を踏まえ、52年判断条件に示された症候の組合せが認められない場合における同条件にいう総合的検討のあり方を整理したので、これに基づき、引き続き認定審査を適切に実施されたい。

1.総合的検討の趣旨及び必要性

 公健法第四条第二項に定める水俣病の認定は、申請者が水俣病にり患しており、かつそれが指定地域において魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取したために生じたものであると認められるかどうか判断してなされるものである(ここでいう「水俣病」とは、52年判断条件及び最高裁判決の中で同様に明記されているとおり、魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起こる神経系疾患である。)。
 ここで、感覚障害や運動失調といった水俣病にみられる個々の症候は、それぞれ単独では一般に非特異的であると考えられ、その一つの症候がみられることのみをもって水俣病である蓋然性が高いと判断するのは困難である。このため、最高裁判決でも判示されたとおり、52年判断条件は、水俣病を発症するに至る程度の有機水銀に対するばく露が確認され、かつ、同条件に定める「症候の組合せが認められる場合には、通常水俣病と認められるとして個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係についてそれ以上の立証の必要がないとする」(最高裁判決)ものである。
 一方、52年判断条件は、水俣病であることを判断するに当たっては、総合的に検討する必要があるとしており、最高裁判決も、「52年判断条件に定める症候の組合せが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はないところ」とした上で、「52年判断条件は、(中略)上記症候の組合せが認められない場合についても、経験則に照らして諸般の事情と関係証拠を総合的に検討した上で、個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係の有無等に係る個別具体的な判断により水俣病と認定する余地を排除するものとはいえないというべきである。」と判示している。このように、52年判断条件に示された症候の組合せが認められない場合についても、同条件に基づき、申請者の有機水銀に対するばく露及び申請者の症候並びに両者の間の個別的な因果関係の有無等を総合的に検討することにより、水俣病と認定しうるものである。

2.総合的検討の内容

 申請者の有機水銀に対するばく露及び申請者の症候並びに両者の間の個別的な因果関係の有無等に係る総合的検討の内容としては、個々の申請者の状況に応じて、以下の項目について確認、判断等することが望ましい。

(1) 申請者の有機水銀に対するばく露

 申請者の有機水銀に対するばく露については、まず、申請者から、申請者が有機水銀に汚染された魚介類を多食したことにより有機水銀にばく露したとしている時期(以下「ばく露時期」という。)並びに申請者のばく露時期の食生活(摂取した魚介類の種類、量、時期を含む。)及び魚介類の入手方法を確認すること。
 そのうえで、これらの事項と以下の@からCに掲げる事項について総合的に勘案することにより、申請者が、指定地域において魚介類に蓄積された有機水銀をどの程度経口摂取し、ばく露したのか、またそれがどの程度確からしいと認められるかを確認すること。 

@申請者の体内の有機水銀濃度

 申請者の体内の有機水銀濃度(汚染当時の頭髪、血液、尿、臍帯などにおける濃度)が把握できる場合には、それがどの程度の値かを確認すること。

A申請者の居住歴(申請者の居住地域の水俣病の発生状況)

 申請者がばく露時期に住んでいた地域において、住民数に比してどの程度の数の公健法等に基づく水俣病の認定があったかを確認すること。

B申請者の家族歴(家族等の水俣病の認定状況)

 申請者がばく露時期に同居していた家族等の中に、公健法等に基づく水俣病の被認定者がいるかどうかを確認し、いる場合には、被認定者がどの程度いるか等を確認すること。

C申請者の職業歴(漁業等への従事歴)

 申請者及び申請者がばく露時期に同居していた家族等が、申請者のばく露時期に、漁業等の魚介類を多食することとなりやすい職業に従事していたかどうかを確認し、していた場合には、その内容や期間等を確認すること。

 なお、以上の確認に当たっては、「水俣病が発生した地域におけるメチル水銀のばく露レベルと水俣病発症可能性について整理すると、(中略)水俣湾周辺地域では、遅くとも昭和44年以降は(阿賀野川流域においては、昭和41年以降)、水俣病が発生する可能性のあるレベルの持続的メチル水銀ばく露が存在する状況ではなくなっていると認められる。」(平成三年十一月二十六日中央公害対策審議会答申。以下「平成3年答申」という。)とされていることにも留意すること。

(2) 申請者の症候

@申請者の関連症候

 申請者について、水俣病の関連症候(水俣病が呈する症候として52年判断条件に列挙されたもの)を呈しているかどうか、呈している場合には、さらに、当該症候の強さ、発現部位、性状等が、水俣病にみられる症候としての特徴を備えているかどうかを確認すること。その際、例えば、感覚障害については、「水俣病にみられる四肢末端の感覚障害は、典型的には、表在感覚、深部感覚及び複合感覚が低下するものであり、障害が左右対称性で四肢の末端に強く体幹に近づくにつれてしだいに弱くなる、いわゆる手袋靴下型の感覚障害である。」(平成3年答申)とされていることに留意すること。
 また、申請者において上記症候が生じたと考えられる時期(以下「発症時期」という。)を確認すること。

A申請者の一般的医学情報

 申請者の年齢、性別、身長、体重、既往歴(疾患の種類、経過、治療を受けている場合には、その内容等。水俣病の関連症候を示すことのある他の疾患へのり患の有無等を含む。)を確認すること。

(3) ばく露と症候の間の因果関係について

 申請者の有機水銀に対するばく露と申請者の症候との間の個別的な因果関係の有無等については、以下の@及びAの観点から確認したうえで、ばく露の側面からの蓋然性((1)で確認されたばく露の程度や確からしさ)と、症候の側面からの蓋然性((2)で確認された症候、それぞれの強さ、発現部位や性状等が水俣病にみられる症候としての特徴を備えているかどうか)をあわせて総合的に検討して、判断すること。
 その際、以下の@及びAの観点から確認されたことを前提として、ばく露の側面からの蓋然性と症候の側面からの蓋然性がともに高い場合には、申請者の有機水銀に対するばく露と申請者の症候との間の個別的な因果関係が認められる蓋然性は、そうでない場合と比べて比較的高くなると考えられるところ、症候の側面からの蓋然性が低い場合には、因果関係が認められる蓋然性を、ばく露の側面からの蓋然性が相当程度高いかどうか及び以下の@及びAの観点から十分に確認し、判断すること。

@申請者のばく露時期と発症時期の関係

 ばく露時期と発症時期の関係については、「ばく露後発症までの期間は、メチル水銀では通常1ヵ月前後、長くとも1年程度までであると考えられている。」(平成3年答申)ところであり、発症時期がばく露後1か月から1年程度であれば、申請者の有機水銀に対するばく露と申請者の症候との間の個別的な因果関係が認められる蓋然性が高いと判断して差し支えない。一方、「ばく露が停止してから症状が把握されるまで数年を超えない範囲で更に長期間を要した臨床例が報告されている」(平成3年答申)ことにも留意すること。

A他原因との比較評価

 水俣病の関連症候は、それぞれ単独では一般的に非特異的であることから、申請者の症候が有機水銀に対するばく露に起因する蓋然性を、(2)Aにより把握された申請者の一般的医学情報も用いて、それ以外の疾患等による蓋然性と比較して評価すること。

3.総合的検討における資料の確認のあり方

(1) ばく露等に関する資料の確認のあり方

 2.(2)に掲げた事項は、主治医の診断書及び公的検診の結果等により確認されるものであるところ、2.(1)及び(3)に掲げた事項についても、できる限り客観的資料により裏付けされる必要があること。ばく露に関する客観的資料としては、漁業許可証等の公的な文書はもとより、種々の疫学的な知見や調査の結果等についても、それが適切な手法によって得られたものであって、かつ、申請者のばく露時期や申請者がばく露時期に住んでいた地域等に係る個別具体的な情報が記録されており、申請者の有機水銀に対するばく露を直接推し量ることができると認められるものであれば、客観的資料として取り扱うことができること。

(2) 未検診死亡者に係る臨床的医学知見についての資料の確認のあり方

 認定申請後、審査に必要な検診が未了のまま申請者が死亡し、かつ剖検も実施されなかった場合には、52年判断条件にあるとおり、「ばく露状況、既往歴、現疾患の経過及びその他の臨床医学的知見についての資料を広く集め」、総合的な検討を行う必要がある。
 この場合、臨床医学的知見についての資料については、申請時に提出された診断書を作成した医師が所属する医療機関その他の申請者の受診歴のある医療機関から診療録等の提供の提供を受けて、それらの資料が、申請者が水俣病である蓋然性が高いかどうかの判断に資するものかどうかを以下の観点から確認し、それらを基に、より慎重に総合的検討を行うこと。

・医師が、主治医として申請者を一定期間継続的に診療する過程で作成したものであること

・2.(2)に掲げる申請者の症候に係る事項が確認できるに足りるだけの診察等の方法がとられ、かつその結果が十分に分析されたものであり、それが正確に読みとることができること

 複数の医療機関から資料の提供が得られた場合には、それぞれの臨床所見や検査結果についての上記の観点からの確認に加えて、それらの資料の相互の関係にも留意して、総合的検討を行うこと。

4.留意事項

・これまで各県市において水俣病の認定に当たり52年判断条件に基づかない認定審査が行われてきたと捉えるべき特段の事情はなく、過去に行った処分について再度審査する必要はないこと。

・今後、各県市において、本通知に沿って認定審査の事務を行っていく中で、本通知の解釈に係る疑義が生じた場合には、適宜環境省に照会されたいこと。

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