トップ > 最高裁判決後の申入書 抗議文 > 環境省抗議文20130709

環境省 抗議文 2013年7月9日

2013年7月9日

環境大臣 石原 伸晃 殿
環境省総合環境政策局環境保健部企画課
特殊疾病対策室 室長 小林 秀幸 殿

水俣病溝口訴訟原告     溝口秋生
上記訴訟弁護団 代表 弁護士 山口紀洋

抗 議 文

 水俣病溝口訴訟原告、弁護団は連名で、6月21日付、6月26日付の申入書を送付し、7月9日の環境省との交渉を申し入れました。
 これに対し、環境省は、6月25日付の文書で、「溝口訴訟は、最高裁判決をもって終結しており、熊本県知事による溝口チエ様の水俣病の認定もなされております。」と回答し、交渉を拒否しました。
 さらに、交渉をめぐり双方のやりとりが続いている最中にあって、小林室長は、代理人である弁護団には何の了解も得ずに、7月3日に原告本人に直接面会し、申入れに関する回答をしました。
 私どもの交渉申入れに応じない環境省の対応、および代理人を無視する小林室長の行動に対し、厳重に抗議します。そして、今後は私どもの交渉申入れに誠実に対応するよう強く求めます。

1.環境省は、4月16日の最高裁判決に従い、法に適合する認定基準を新たに策定することをはじめ、認定制度運用の抜本的改革を行う法的義務があること

 4月16日の最高裁判決は、主文を導く理由の中で、救済法・公健法における水俣病に関する諸概念(水俣病の定義、認定審査の対象、認定の法的性質、認定の判断要素など)について、最高裁として初めて統一的な解釈を示しました。
 さらに、最高裁判決は、この諸概念に対する行政の解釈が誤っていると、行政の主張をことごとく斥けました。
 つまり、行政は、水俣病の定義につき、「一般的定説的な医学的知見からしてメチル水銀がなければそれにかかることはないものとして他の疾病と鑑別診断することができるような病像を有する疾病」、認定審査の対象につき、「一般的定説的な医学的知見に基づいて水俣病にかかっていると医学的に診断することの可否が専ら処分行政庁の審査の対象となり、そのような医学的な診断が得られない場合における個々の具体的な症候と原因物質との個別的な因果関係の有無の詳細な検討まではその審査の対象となるものではない」と主張しました。
 これに対し、最高裁は、水俣病の定義は「魚介類に蓄積されたメチル水銀を経口摂取することにより起こる神経系疾患」、認定審査の対象は「水俣病の罹患の有無という客観的事実」とし、行政の解釈は殊更に狭義に解していると否定しました。
 また、最高裁は、認定にさいし、「個々の患者の病状等についての医学的判断のみならず、患者の原因物質に対する曝露歴や生活歴及び種々の疫学的な知見や調査の結果等の十分な考慮をした上で総合的に行われる必要がある」と判示し、行政の「救済法は、ある者が水俣病にかかっているか否かの判断を医学的診断に委ねている」という解釈を斥けました。
 さらに、最高裁は、認定の法的性質について、「客観的事象としての水俣病の罹患の有無という現在または過去の確定した客観的事実を確認する行為」とした上で、この判断において行政の裁量に委ねてはならないと判示しました。

 このように、最高裁判決は、故チエに対する水俣病の認定義務付けを確定するとの結論を導く前提として、行政が救済法・公健法による認定制度を運用するに当たり、その基礎となる諸概念に対する行政の解釈が誤っていると断言したのです。したがって、行政は、判決の趣旨に沿い、これまでの認定制度の運用を抜本的に改革しなければならないのは、最高裁判決の法的拘束力からみて明らかです。
 つまり、最高裁判決の主文により確定判決となった福岡高裁判決に従い、故チエを水俣病と認定することだけが、行政が果たすべき義務ではありません。上記の、最高裁判決の趣旨に沿って認定制度の抜本的改革を行うこともまた、行政に課せられた法的義務です。
 当然この中には、原告および弁護団の交渉申入れに応じ、その意見を聞き、改革の具体的内容について協議することも含まれます。

2.原告および弁護団は、行政に対し、認定制度の抜本的改革を求める権利を有すること

 原告の溝口秋生が、裁判の中で、この裁判はすべての未認定患者を代表して闘っているのだと再三述べ、故チエに対する違法な認定審査をはじめ、これまでの行政による違法な認定制度運用の実態を明らかにし、行政の責任を追及してきました。
 そして、最高裁判決は原告の主張を全面的に認めた以上、原告および弁護団には、故チエの認定はもとより、認定制度の抜本的改革を求める法的権利があります。
 当然この中には、行政が最高裁判決の趣旨に沿った改革を行なおうとしているか監視するとともに、改革の過程において主体的に参加、協議する権利も含まれます。

3.環境省の交渉拒否は、環境省が負う法的義務に違反しており、また、小林室長の行為は代理人制度を否定するものであり、ともに許されないこと

 今回の原告および弁護団の交渉申入れは、上記の権利行使の一環であり、環境省にはこれに誠実に対応すべき義務があります。したがって、環境省が、裁判が終結したことや故チエが認定されたことを理由として、交渉を拒否するのは義務違反であり許されません。
 さらに、原告および代理人である弁護団の連名で交渉を申し入れている以上、小林室長は、交渉申入れに関する件につき、まず代理人と話をすべきところ、代理人の了解も得ずに、原告本人に直接面会して回答する行為は、代理人制度を否定する違法な行為と言わなければなりません。

 そもそも私どもは、行政不服審査請求から裁判と、一貫して、溝口秋生の依頼を受けて、代理人として活動してきました。溝口秋生はじめ家族みんなが水俣病で苦しんでいる状況があり、加えて、水俣という地域で行政に立ち向かうこと自体大変な困難を伴うことから、溝口秋生は私どもを信頼して一任し、私どもも、代理人としての責任を果たすべく努力してきた経過があります。
 また、溝口秋生は、7月3日の小林室長の訪問について、「私にとって代理人は大切な存在です。7月9日の交渉申入れについても代理人に任せているのだから、てっきり小林室長は、代理人の了解を得て私のところに来たのだと思っていました。代理人がいるのに、なぜ直接私に話すのかと不思議でした。7月3日に小林室長にお会いしたのは、本当は迷惑でしたが、O君が間に入っており、断るのはO君に悪いと思ったからです。あとで、小林室長が代理人に無断で私に会いに来たことを知り、とても納得できません。」と語っています。
 このように、溝口秋生と代理人との信頼関係、そして溝口秋生の言葉に照らして、小林室長の行為は、溝口秋生の代理人に寄せる信頼と、それに応えようとする私ども代理人の立場を踏みにじるものです。

4.よって、私どもの交渉申入れに応じられないという環境省の回答、小林室長の代理人を無視する行為に対し、厳重に抗議します。

 そして、私どもは今後も、2013年4月18日付環境省見解は、最高裁判決を否定するものであるから、ただちに撤回すること(7月5日付要求書の「第2」)、熊本県と密室で進めている「52年判断条件における総合的な検討の具体化」の作業を即時中止すること(同要求書の「第4」)などを求めて、交渉申入れを行いますが、環境省には私どもの交渉に応じるべき義務があるのですから、誠実に対応するよう強く求めます。

以上

トップ > 最高裁判決後の申入書 抗議文 > 環境省抗議文20130709