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2018年1月28日
厚生労働大臣 加藤勝信 様

抗 議 書

水俣病食中毒事件食品衛生法食中毒調査義務付け等訴訟
 原告 岡山大学大学院教授 津田 敏秀
 原告弁護団弁護士     山口 紀洋
 弁護団事務局       鈴村 多賀志

第1 食品衛生法義務付け等訴訟

 水俣病被害者互助会訴訟の原告団長佐藤英樹と、2012年に天草保健所長と出水保健所長に水俣病患者発見の報告をした国際的疫学者・医師の津田敏秀教授が、2014年と2015年に、厚労大臣を行政処分庁として、食衛法法定食中毒調査を実施するよう、東京地方裁判所に提起した。
ところが残念ながら、佐藤訴訟は東京高等裁判所で敗訴し、津田訴訟は昨年12月21日に最高裁で上告棄却の決定を受けた。
 しかし同訴訟を通じて、厚労大臣も国も、過去61年間、食衛法法定調査を拒否している事実を認めている。
 従って最高裁も、厚労大臣の61年間の食中毒法定調査拒否を前提としながらも、なお原告の請求は行政訴訟法上、処分性がないという形式判断をした。
 従って最高裁決定以降、厚労大臣の食衛法上の調査遂行の必要性義務性はますます高まったのである。
 事実、昨年11月29日には、同じ東京高等裁判所は、新潟水俣病行政訴訟に対して、新潟水俣病の実態を食衛法上の調査に代わる曝露地域のデータを基礎にして疫学的手法により、原審を覆して、患者原告9名全員の水俣病を認定した。
 従って厚労大臣の調査拒否は違法であるばかりでなく、曝露地域の患者に対して現実的決定的な損害を与えていることが明らかになっている。

第2 水俣病事件

 熊本県のチッソ及び新潟県の昭和電工の水俣病事件で、厚労大臣が食衛法の調査を半世紀以上も曝露地域でなさないために、50万人以上の患者達が放置されている。水俣病事件で患者の全面的な救済がなされないことは、日本社会においても、憲法第25条2項から考えても、重大事件である。
 しかも水俣市では毎年5月1日の患者公式発表の記念日には、環境大臣、知事、チッソ社長など加害者らが被害者慰霊式で、謝罪と救済を誓っている。それにもかかわらず現実は、厚労大臣は食衛法上の調査を只の1回もなさぬままに、不知火海沿岸全域、阿賀野川流域に拡がる水俣病患者発生を認めない、無法の行政措置が罷り通っている。

第3 調査要請

 ところでこれまで熊本水俣病事件では不知火海漁民、各患者団体、被害者支援者、知識人をはじめとして、津田教授、二宮正熊本大学研究員、或いは前熊本県知事潮谷義子氏、不知火訴訟原告弁護団等は、保健所長、熊本県、環境庁、政府に何十回となく、不知火海沿岸住民悉皆調査を行うよう申し入れや要求を行ってきたし、国会でも調査要請付帯決議がなされている。
 しかし、患者発生当時の水俣市保健所長伊藤蓮雄氏は、チッソの利益を優先して1956年以降、熊本県議会において調査拒否を何度も言明していたし、厚労大臣も、今日に至るまで法令に基づく調査を拒否している。

第4 調査拒否の犯罪性

 最近の行政の調査拒否理由は、正しい調査方法が分からない、調査しても効果がない、水俣病の調査と対策は不十分であれすでに済んでいる等である。
 しかし、食衛法の調査方法は政令に詳述されており、その効果は日本精神神経学会で公認されているところであり、しかも水俣病特別措置法での申請者が5万人近くの規模でなされ、水俣病食中毒患者の発生・発見が現在のことであることは明確である。
 それにもかかわらず厚労大臣が50万人の曝露地域の住民の食中毒調査を拒否しているため、半世紀以上経った今日でも、国は水俣病の死者数、病者数、発生地域の確定、病像基準すら確認出来ないでいる。その理由は法定調査によるフィールド・データーを今日に至るまで収集しないからである。
 このような事態が、法治国家で許されるはずはない。
 しかも水俣病事件は発見当初に食衛法の法定調査をしていれば、水俣病事件の被害者は100人単位で終息したものであり、調査拒否の犯罪性は日本史上、類を見ないほどの凶悪犯罪と言わねばならない。

第5 結論

 よって我々は厚労大臣の食衛法上調査拒否に対して満腔の怒りをもって抗議すると共に、厚労大臣は、いつ、水俣病曝露地域に対する食衛法上の食中毒調査を開始するのかの回答を、直ちに求める。

 以上

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