更新日2021/11/14:公開質問に対する熊本県、鹿児島県の回答を掲載しました。
更新日2021/09/26:<水俣>を語ろう のウェブサイトにリンクを張りました。
更新日2021/09/10:チエの話(75)を掲載しました。
更新日2021/08/24:ようやく(2年ぶり)更新しました(トップページ、チエの話バックナンバー)
更新履歴

溝口さん(水俣病認定)棄却取消・義務付け行政訴訟のホームページ

 半世紀以上にわたって水俣病被害者を苦しめ続けている「水俣病認定制度」。その政治的な認定基準や行政の不合理な運営に対する水俣病被害者の闘いが続いています。

溝口訴訟のあらまし> <溝口訴訟最高裁判決文>チエの話
最高裁判決後の申入書 抗議文
新通知差止め訴訟と仮の差止め請求の経過> <水俣病食中毒調査の義務付け訴訟の経過
関連リンク

 2021年9月23日から、故ユージン・スミスを主人公にした映画「MINAMATA」の上映が始まりました。
 ジョニー・デップ主演ということもあり、マスコミでも注目されているようですが、これを機に水俣病事件の現状を広く知ってもらおうと有志がウェブサイトを開きました。見やすく、わかりやすいサイトになっていると思います。

{「水俣の今」を知るサイト<水俣>を語ろう}

 

 2013年4月16日、最高裁(第3小法廷 寺田逸郎裁判長)は、溝口チエさんを水俣病患者と認める判決を出しました。
 最高裁は、環境省・熊本県の主張をことごとく斥けたうえに、現行認定基準(52年判断条件)によって棄却とした熊本県の判断を覆したのです。これは実質、52年判断条件の見直しを迫るものです。さらに、国の機関である公害健康被害補償不服審査会(環境省の主管)は、「従前の裁決を変更する」と明言して、同じく熊本県に認定棄却とされていた下田さんを、水俣病と認める裁決を出しています。(2013年10月25日)
 しかし環境省は、これらの最高裁判決や決裁を真っ向から否定する新通知を、2014年3月7日付で発出しました。
 私たちは、このような環境省の対応に強く抗議し、新通知を撤回させ、水俣病の実態に即した補償制度が構築されるよう活動を続けます。

<溝口訴訟弁護団東京事務局 連絡先>
〒337-0033 埼玉県さいたま市見沼区御蔵 1247-8 鈴村 多賀志 方

 最近増えている公害健康被害補償不服審査会の却下理由に関して、蒲島熊本県知事と塩田鹿児島県知事に公開質問をしました。
 熊本県知事宛の質問状を掲載しますが、鹿児島県知事にも同文の質問状を送りました。(知事名と県名が異なるだけ)
 この公開質問に対して、熊本県は10月21日、鹿児島県からは10月26日付けで回答がありましたので、質問状とともに掲載します。

2021年8月23日

 熊本県知事 蒲島郁夫 様

 質問者 鈴村多賀志

公開質問状

 蒲島熊本県知事におかれましては、ますます御健勝のことと、お慶び申し上げます。
 私は、生業の傍ら水俣病被害者の支援活動をしていますが、1956年のいわゆる公式確認から65年以上の歳月を経ても、水俣病被害者への補償・救済問題が未だに解決されない現状を大変憂いています。
 ところでここ数年、公害健康被害補償不服審査会(以下、不服審査会)において、審査請求期間内に請求が間に合わなかったという理由で門前払いの却下となる裁決が多くなってきています。

 実際に過去5年間(2016/07/01〜2021/07/09日付)の不服審査会の裁決を集計したのが別紙の「添付資料」です。
 この期間で水俣病に関する裁決数は21件、そのうち請求期間の徒過が理由となっている却下数は6件(処分庁熊本県3件、鹿児島県3件)もあり、裁決数の28.6%にもなります。なお2018年9月28日付却下の3件は、新潟水俣病認定義務づけ訴訟の勝訴により水俣病の認定がされたため不服審査請求の利益がなくなったというもので、これは事実上の原処分の取消です。
 同期間の大気系疾患の場合では、請求期間徒過による却下件数は1件で、裁決数の6.7%となっています。2021年7月9日付裁決の1件の却下理由は申請書類に不備があったというものですが、この件を加えたとしても大気系疾患における却下率は13.3%であり、水俣病の半分以下です。
 さらに適用法律は異なりますが、同じ不服審査会で審理がされる石綿の場合になると、裁決数67件、却下数2件となり却下率は3.0%しかありません。

 請求期間の徒過による却下数が裁決数の約3分の1にもなり、他の疾患と比べて突出している状況は、単に個々の申請者の問題とは言いがたく、何か構造的な問題がある、例えば熊本県と鹿児島県の教示方法や処分後のフォローが水俣病の申請者の実態に合っていない、と考えざるを得ません。

 水俣病は未だに差別・偏見を恐れ、家族内でもお互いに隠すような病気です。さらに他県に移住した人の場合になると、水俣病に対する情報自体が皆無となります。
 不服審査請求の手続きに関する情報や相談できる人が不足しているなかで、さらに差別・偏見に対する恐怖・逡巡を乗り越えなければならない水俣病の申請実態があるときに、ありきたりの教示等で済ませてよいのか、申請者の実情に合わせた施策・運用が必要ではないのかと考えます。
 そこで当該自治体の首長としての見解を伺いたく、以下の公開質問をいたします。

1.県の認定審査によって棄却・却下の処分となった申請者に対して、申請者が置かれた実情を踏まえて審査請求期間の徒過とならないようなフォローを、現在何かしているのですか。

2.裁決数の約3分の1もの事案について、水俣病に罹患しているか否かという具体的な審理もされず、門前払いの却下をされているという現状をみて、行政不服審査請求の制度が適切に運営されていると認識されるのですか。県は関係ないという認識なのですか。

3.他の疾患に比べて水俣病では審査請求期間の徒過となる事案が多い原因は何だと考えますか。

4.県には全ての水俣病の被害者に対して、あらゆる補償・救済制度に導く責務があります。門前払いの却下処分が出る状況は、その責務が果たせていません。
具体的な改善策を示してください。

 以上、口頭・電話では聞き間違いや勘違いが生じますので、必ず文書でご回答いただくようお願いします。
 回答は2021年10月末までにお願いします。

 以上

裁決集計表

○ 上記公開質問に対する熊本県の回答

○ 上記公開質問に対する鹿児島県の回答


*最高裁判決に違反する新通知

<2014年3月7日付新通知はこちら>

<新通知の問題点>
 新通知の内容の具体的な問題点は、2014年3月28日付溝口訴訟弁護団の抗議文(本文はこちらへ)を参照してください。
 最大の問題は、「最高裁判決は52年判断条件を否定していない」と最高裁判決の趣旨をねじ曲げ、現行の認定制度体制の維持・固定をすることを目的とした通知であることです。
 新通知を作成した飯野暁・環境省企画課長補佐は、新通知を作成するにあたって参考にしたのは熊本県の認定審査に関する資料のみです。しかも、その資料のうちでも「総合的検討」に基づき認定された(52年判断条件が挙げる症状組合せには該当しないが認定された)事例しか見ていないと明言しています。ちなみに、このような事例は4件しか知られていません。
 最高裁判決を導いた溝口チエさんやFさんの事例を検証していないどころか、参考した事例の数も答えられず、一連の裁判の焦点の一つであった感覚障害のみの場合については、何ら検討をしていないことを明らかにしています。(3月7日マスコミレクチャー)
 さらに4月2日に行われた、水俣病被害者互助会訴訟との交渉では、新潟県や鹿児島県については、何も見ていないことが判明しました。
 そして、止めを刺すのが西日本新聞記者の取材に答えた環境省保健部の「最高裁は誤解をしていた」(4/30西日本新聞朝刊)という主張です。
 これを解釈すると、彼らの言い分は、「認定審査会は以前から『総合的検討』をしていたのだが、最高裁は総合的検討をしていなかったと誤解した。確かに52年判断条件には『総合的検討』について具体的内容の記述がないので、過去の熊本県認定審査会の実績をまとめました」と言うことのようです。

 では、その「総合的検討」がなされて熊本県に棄却処分とされたチエさんやFさんは、何故裁判でひっくり返ったのでしょうか?
 同じ「総合的検討」という言葉を使ってはいても、その内容が司法と認定審査会では全く異なっていたから、逆の結果が出たのです。
 しかし最高裁判決は、司法でも行政でも水俣病認定とは罹患の事実の確認であり、同じものであると明言しています。
 その指摘を無視して、過去の運用実績(しかも熊本県の資料のみ)をまとめて事足れり、とした環境省の対応は、溝口訴訟やFさん訴訟の否定以外の何ものでもありません。

<何も変えないことを確認した臨水審>
 そして環境省は、4月26日、国の水俣病認定審査会(臨時水俣病認定審査会・臨水審)を開催しました。
 しかし任命された臨水審の委員は、10人中9人が各県・市(新潟水俣病は新潟県と新潟市)の現認定審査会委員であり、残り1人(二塚信氏)も水俣病被害者互助会訴訟で、国側証人として証言した人物です。

 過去の審査会の運用をまとめただけの新通知に基づき、現認定審査会委員が審査を行う。
 これで、今までと異なる認定答申が出ようはずがありません。もしそのような答申を出せば、「では過去の審査は何だったのか」と責められるのは、他でもない臨水審委員自身だからです。「過去に行った処分について再度審査する必要はないこと」とした新通知の保留事項を、自ら崩すような委員はいません。
 西日本新聞の取材に環境省保健部は「(臨水審でも)指針(新通知)に対する異論はなかった」と答えていますが、当たり前の話です。人を馬鹿にしているとしか思えません。

<国が積み上げる患者切り捨ての実績>
 最高裁判決を無視する国や県の方針は、判決直後から一貫してきました。
 判決直後の僅か2日後の4月18日には、南川秀樹(当時)環境省事務次官が、認定基準を見直さない見解を示しており、7月22日の熊本県交渉では、中山広海・熊本県水俣病審査課課長が「(認定審査委員に対して)これまで通りの審査をお願いしたい」と発言していました。
 そして前号でも報告しましたが、大阪の不服審査請求口頭審理でも、熊本県側は「今まで何も間違っていなかったし、今後も何も変えるところはない」と宣言するなど、その態度はますます硬化しています。

 しかし、昨年10月の下田さん裁決(国の公害健康被害補償不服審査会)は、さすがに彼らにとって衝撃だったのでしょう。国と県の認定審査会委員を務めるという負担を委員に課してまでの今回の人選は、環境省の思惑と異なる答申は出させない、2度と下田さん決裁を出さないという布陣なのです。また環境省の対応に批判的な新潟県に対する牽制の意味もあるでしょう。

 蒲島知事が環境省に求めた「国による実績の積み重ね」とは、“どんな判決があろうと、どこの審査会で審査しようと、答申結果は変わりません”、という患者切り捨て実績の積み重ねとなるのです。


<新通知差止め訴訟>

○2014年8月8日 新通知差止め訴訟 不当な東京地裁判決判決文はこちら

 2014年8月8日、東京地方裁判所民事第38部(谷口豊裁判長、横田典子裁判官、下和弘裁判官)は、3月7日に発出された新通知の差止めの訴えを却下する判決を下しました。
 口頭弁論を一度も開くこともなく、「訴えの適法性」という法廷技術論によって却下(門前払い)するという不当なものです。

<環境省の最高裁解釈を鵜呑み>

 新通知に関する事実認定において判決文では

「(溝口訴訟、Fさん訴訟最高裁判決)において、水俣病の認定審査における総合的検討の重要性が指摘されたことを受け、環境省は、これまでの認定審査の実務の蓄積等を踏まえて、昭和52年判断条件にいう総合的検討の在り方を整理した上、関係各都道府県知事及び政令市市長に対し、今後の公健法に基づく水俣病の認定審査における指針とするため、本件通知を作成し」

と述べています。
 まず、上記の2つの最高裁判決が、52年判断条件を実質的に否定したことを、全く抜け落としています。また「総合的検討」については、上記の最高裁判決は柔軟な運用を求めており、運用方針に申請者が実行不可能な枠をはめることなどは、一言も要求していません。
 「52年判断条件を前提とした総合的検討の具体化が必要」、などというのは、環境省と熊本県の勝手な歪曲です。
 まして患者切り捨てを続けてきた「過去の実判決に違反するものであることは、明らかになっています。

<処分性の考え方>

 そして、このような新通知の問題には触れず、新通知やこれに基づく認定審査の「処分性」、つまりこれらの行政行為が「国民の権利義務を形成するか否か」の議論になります。
 新通知については

「個々の認定申請者との関係では、関係各都道府県知事又は政令市市長が本件通知を踏まえてその水俣病認定申請に対する認定又は棄却処分をした場合に、その時点で初めて認定申請者の権利義務に直接影響を及ぼす行政処分がされるに至ると解される。そうすると、本件通知は、行政機関相互における内部行為にすぎず」

同じく、認定審査会の審査についても

「しかしながら、県知事が、公健法4条2項の認定を行うに際し、認定審査会の意見を尊重することが多いとしても、公健法の規定上、県知事が行う上記認定が認定審査会の意見に拘束される関係にあるということはできないし、認定審査会の認定審査という事実行為も、県知事が行う上記認定の意思決定過程における内部行為にとどまり」

いずれも

「直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではない」

と結論づけています。
 知事による最終の認定棄却処分のみが行政事件訴訟法にいう「処分」に当たるのであって、そこに至る通知や審査過程は「処分」ではないという考え方です。そして新通知の持つ拘束性についても、「公健法の規定上」県知事の認定処分が拘束される関係にない、と述べています。
 この通知や認定審査会に対する判決の認識は、条文しか見ない机上の論理です。過去37年間にわたって52年判断条件によって、認定審査や知事の処分が拘束され、1万人以上の申請者が棄却切り捨てられてきた事実を全く見ようとしていません。既に新通知によっても、4人の申請が棄却された現実があるのです。

 原告側は新通知の「処分性」を判断する考え方として「メカニズム解釈」を主張しました。
 これは今日のように複雑化した社会においては、行政活動も数多くの行政の行為(諮問や通知、勧告等)の組合せにより一つのメカニズム(仕組み)が形成されているため、各行政行為が一連のメカニズムの中で持つ意味と機能を把握しなければその行政行為の「処分性」は正しく判断できない、と言うものです。
 このメカニズム解釈が、2004年行政訴訟制度改革の趣旨であり、具体的な最高裁判例(病院開設中止勧告事件等)も挙げました。
 しかし判決では、この指摘について、上記の最高裁判例が本訴訟に機械的に当てはめられるかどうを議論して、事案・条件が異なると却けただけでした。
 メカニズム解釈についての評価や、新通知が一連の認定作業の中で実際に持っている効果についての検討・考察はありませんでした。

<認定棄却されても不利益は課せられない>

 新通知によって原告が受ける損害については、

「仮に本件認定申請を棄却する処分がされた場合であっても、原告は、補償給付を受けることができないというにとどまり、これによって当該処分がされる前の状態に比して何らかの不利益を課されるものではない」

と判断しています。
 訴状でも述べていますが、公健法の認定を受けるということは、単に金銭補償を得るだけではありません。適切な医療行為を受け、例え完治せずとも現状を悪化させない、という大事な効果を生むのです。地裁判決は、水俣病患者として認定されることの意味が分かっていません。
 また、棄却処分を受けた後に、行政不服審査請求や棄却取消訴訟を起こせる、と言っていますが、行政不服や訴訟は申請者に過大な負担をかけるものであり、また長い年月の果てに最悪の場合には死亡してしまうことがあります。
 Fさんは最高裁判決の1か月前に亡くなりました。Fさんの無念は、谷口裁判長には伝わらなかったのでしょうか。

<新通知を撤回しても状況は変わらない?>

 そして最後に

「認定がされるまでに長期間を要し、過大な負担を余儀なくされること、あるいは補償給付を受けることができないことによる損害は、本件認定申請に対する認定がされない状況が継続することによって生じるものであるから、本件認定申請に対する処分の差止めにより本件認定申請に対する認定がされない状況を作出することによって救済を受けることができる性質のものではない」

と述べています。
 持って回った言い方ですが、要は新通知を撤回しても、申請者が切り捨てられている状況は変わらないではないか、と言っているのです。
 これは、明らかに居直りの理屈であり、国・熊本県の無策・失策を黙認するものです。
 口頭弁論を一回も開かなかったのは、行政の無策・失策を白日の下に明らかにしたくなかったのでは、とさえ勘ぐりたくなります。
 司法は、水俣病問題が公式確認から58年間を経た現在においても、未だに解決せず混乱している状況と原因を直視して、これを是正するよう勧告する責任を果たすべきなのです。

○2015年6月25日 新通知差止め訴訟控訴審(東京高裁)不当判決 高裁判決文(pdf)

<僅か1分半の判決言い渡し>

 柴田寛之裁判長は、「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人が負担する」と、主文を読上げ、僅か30秒で退出しようとしました。
 山口弁護士が立ち上がり「裁判長、そのような判決で、60年間の違法行政の水俣病事件が解決すると思われますか」と問いかけましたが、柴田裁判長は、「もう終わりましたから」としか答えず、法廷は僅か1分半で終了しました。
 この訴訟の最終の裁判官構成は、柴田寛之裁判長、梅本圭一郎裁判官、小田靖子裁判官です。

<新通知の不当性には触れない判断>

 判決文では、まず、控訴人(患者側)が、環境省には本件通知を作成・発出する権限がない、と主張した点について、「本件通知の内容が違法である旨の主張であって、本件各訴えが適法か否かにかかわるものではない」と述べます。
 つまり、新通知の違法性・妥当性は関係ないと言うのです。そもそも、新通知が違法・妥当性を持たないものだから、私たちは差止め訴訟を提訴したのです。東京高裁は、審理すべき内容を間違えています。

<公健法の給付は利益?>

 また原告に「重大な損害を生じるおそれ」について、判決文では「認定申請は、公健法による補償給付を受ける前提となる水俣病の認定という利益処分を求めるものであるから、仮に本件認定申請を棄却する処分がされた場合であっても、控訴人は補價給付を受けることができないというにとどまり、その棄却処分によって当該処分がされる前の状態に比して何らかの不利益を課されるものではない」と述べています。
 公健法の補償給付は利益や特典でしょうか?認定されない水俣病患者が現に受けている被害について、全く見ようとしていません。

<新通知の処分性は認めない>

 さらに判決文は「(新通知は)都道府県知事や政令市市長に対するものであり、水俣病の認定事務について公健法の解釈・運用の指針を示すものにすぎないから、個々の認定申請者の権利義務を直接形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものということはできず、処分性を認めることができない」と述べています。
 昨年の新通知発出以降、2013年最高裁に基づけば認定されるべき申請者が、新通知による認定審査によって、次々に棄却されている現状を、完全に無視ししています。

○2015年12月1日 新通知差止め訴訟最高裁棄却

 最高裁第3小法廷は、突然、新通知の内実には触れずに私たちの訴えを棄却・受理しないという門前払いの決定を通知してきました。
 弁護団では、これに抗議する声明を発表しています。
最高裁決定  *弁護団抗議声明


<食品衛生法に基づく水俣病食中毒調査の義務付け訴訟>

 水俣病が集団食中毒であることによる住民調査を義務付けを求める訴訟(食品衛生法に基づく水俣病の法定調査等の義務付け行政訴訟等請求事件)を、東京地裁に提訴しました。
 この訴訟は、水俣病患者の佐藤英樹さんを原告としたもの(2014年5月16日提訴)と、水俣病患者の発生を保健所に報告した医師の津田敏秀さんを原告とした(2015年9月7日提訴)2つの訴訟で闘いました。

 主な請求内容は、

@水俣保健所長と天草保健所長は、食品衛生法58条に基づく、1959年から現在までの水俣病発生に関する調査を行い、その結果を熊本県知事に報告すること。

A熊本県知事は、食品衛生法58条に基づく上記の調査結果を、厚生労働大臣に報告すること。

B厚生労働大臣は、食品衛生法60条に基づき上記の調査・報告を行うよう、熊本県知事に求めること。

C当該保健所長、知事がそれぞれの調査・報告を行わないこと、また厚生労働大臣が調査・報告を求めないことは、違法であることを確認する。

<訴状の概要>
 訴状では、公式確認から6か月後の1956年11月には、水俣病は魚介類による食中毒であることが判明していたこと。そして、当時既にこのような大規模な集団食中毒に対する行政対応や実態把握の方法(すなわち食品衛生法に基づく住民食中毒調査)が、関係行政機関の義務として法定されていたことを指摘しています。
 また、水俣病の実態把握(病像やメチル水銀の汚染範囲)をしなければ、適切な施策ができないことは自明であり、現に1991年の中央公害対策審議会答申や、2004年の熊本県の八代海沿岸住民調査の提案など、行政側からも住民調査の必要性が説かれてきたことを列挙しています。
 しかし、水俣病ではこの当たり前の対応がなされず、代わりに作られた本人申請主義と認定制度は、実態把握からは遠のき、事態を混乱させるだけだったことを明らかにしました。
 何の医学的・科学的根拠を持たない「S52年判断条件」によって、水俣病の病像がねじ曲げられ、さらに本人申請主義では、家族や地域の事情のため申請することが困難であり、患者として名乗り出たくてもできない状況があることを指摘しています。
 その結果、公式確認から58年を経た現在に至っても、水俣病は解決するどころか、民間の調査によって新たな患者や汚染地域の拡大が確認され続けている事実を指摘しました。
 水俣病は、食品衛生法の目的である「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図る」が未だ履行されていない現在進行形の事件であり、直ちに適切な対応施策をとならなければ、不知火海沿岸住民が今後も回復困難な損害を被ることを訴えました。

○2016年1月27日 佐藤訴訟 東京地裁判決 地裁判決文(pdf)

 東京地裁民事第38部(谷口豊裁判長、平山馨裁判官、馬場潤裁判官)は、水俣病食中毒義務付け訴訟において、原告の訴えを全て否定した判決を言いわたしました。

○1.27 東京地裁判決の概要

<食中毒調査と報告の「処分性」について>

 判決では、たとえ食品衛生法の目的が国民の生命・健康を図ることにあるとしても、「手続の目的が国民の権利保護にあることと,これを目的とする個々の手続に処分性が認められるか否かとは,別次元の問題」である、として食衛法に規定されている手続の全てが、国民の権利義務の形成(処分性)につながるわけではないとしています。
 まず、保健所から県知事、厚生労働大臣への報告について、これらは行政間の行為であって、国民の権利義務を形成・範囲確定するものではなく処分性は認められない、と言います。
 そして「(食衛法によって)衛生上の危害が発生することを防止するために個別の国民に対して行われる上記の『規制』とは、直接的には、販売の用に供する食品等の流通、製造等の禁止に関する諸規定と、これらに違反した場合に発動される(中略)汚染食品等の規制であり」「これに対し、食中毒調査は,同法第10章の『雑則』の中に置かれており、上記の各規制を講ずるための前段階としての情報収集の手続として位置付けられているものと解され、食中毒調査の対象となることについて、その後になされ得る上記の各規制行為から離れて独自の法的権利性を付与されていると解すべき法令上の根拠は見出せない」と食中毒調査を位置づけます。
 食中毒調査は、後の製造・販売規制のための前段の作業であり、調査そのものが中毒患者の生命・健康を保護するものではないので、食中毒患者に何らかの権利や法的地位を付与することはなく、処分性は認められないとしています。
 2013年4月の溝口訴訟最高裁判決によって、52年判断条件が否定され、新たな認定基準の策定が要求されていることについては「食品衛生法上の食中毒調査の手続と、原告がそれに関連する行政手続であると主張する水俣病の公健法認定に係る手続との間には、法令上、直接の関連性が見当たらず」として、食中毒調査による水俣病実態把握の意義を無視しました。  谷口裁判長は、調査・報告の義務付けの訴えは、不適法という判断をして却下しました。

<不作為の違法確認について>

 住民調査を行わないことは違法であることを確認する訴えについても、このような訴えをするためには「原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許される」と述べています。
 そして、原告の訴えは「単に行政庁の不作為を取り上げてその違法の確認を求めるにとどまり」、不作為確認を求める原告には訴えの利益がないとして、訴えを却下しました。

<佐藤さんの受ける損害について>

 原告は、食中毒調査によって、食中毒(水俣病)患者として、早急かつ適切な保護がなされる権利があると主張していました。
 また、適切な水俣病像が作られていないため、自分が食中毒患者であるか否かも確定できず、何十年も焦燥感や不安感を持たされ続けている、と訴えました。
 これに対して、東京地裁は「食中毒調査が、その本来的目的である汚染食品等の規制のために必要な情報収集手段であることを離れて、調査の対象者が食中毒患者であるか否かを確認すること自体を食中毒患者等に対して法的に保障してこれを保護しているとまで解すべき法令上の根拠は見出せず」と言い、食中毒患者が調査を受ける権利を否定しました。
 食衛法のによる調査は、「食中毒患者の詳細な病像や患者発生状況の詳細までをも把握しようとしているとは考え難い」として、「仮に食中毒調査の過程において、食中毒患者の病像や患者の発生状況に関する情報が知れることがあり得るとしても、それらは、食中毒調査に伴つて反射的、副次的に得られる範囲の情報にすぎないと考えられる」と、食中毒調査で得られる情報について、食中毒患者に利益・効果を過小評価しています。
 食衛法は食中毒になってしまった患者を救護するものでなく、その後の補償等は別の法令や措置によって対処される事項であり、その実態解明についても「食品衛生法に基づく食中毒調査ではない健康調査等によっても、患者の事後的な補償に資する情報の収集は可能であると考えられる」と無責任な判示をしています。
 原告の主張する損害は「食衛法上で保護される利益」でないとして、訴えを棄却しました。

○2016年7月21日 佐藤訴訟 東京高裁判決 高裁判決文(pdf)

 東京高裁(柴田寛之裁判長、梅本圭一郎裁判官、小田靖子裁判官)は、地裁判決に続き、食衛法に基づく食中毒住民調査を求める訴えを退ける判決を、言い渡しました。

<国民の健康を守らない控訴審判決>

1.調査の処分性について
 食衛法の第1条には、この法律の目的は「公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする」と明記しています。つまりこの法律は、直接には食品の安全を確保することにより、最終的に国民の健康を守ることを目的にしています。
 健康は、基本的人権の生存権の根幹をなすものであり、食の安全に関する様々な施策は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法25条)に直結するはずです。
 しかし、控訴審判決は、「法律の目的は、個々の規定の解釈指針となるものの、その目的から直接に権利義務が導き出されるものではない」「個々の手続の究極の目的が国民の権利保護にあるとしても、そのことと、個々の手続に処分性が認められるか否かは、次元を異にする問題」と判示しました。
 法律の個々の条文や個別の手続は、その法律の目的を達成するために定められています。また法に基づく政令や規則が定められて、初めて為すべき具体的な作業や手続が明らかになり、それぞれは互いに関連しあって進められます。それぞれを、個々バラバラにしては何もできません。
 つまり、その法体系がセットとなって国民の権利に直結していると、考えるべきではないでしょうか。

2.公益の保護と国民の権利
 また、国が主張する「公益の保護」と国民の権利とは二律背反しないのだから、厚生労働省が調査を拒否する理由にはならない、という原告の訴えに対しては、「認定・判断行為によって、個々の患者や国民が行政に対して、食品衛生法上のいかなる規定によって、具体的にどのような措置を要求できるかについて明らかでない」として、正面から向きあっていません。

3.調査の意義
 食衛法に基づく調査マニュアルには「診定」という独自の用語があります。
 単に食中毒患者と医師に「診断」されるだけでなく、保健所長に作成権限のある調査用紙に記載されることによって、食衛法に基づく調査の対象となり、公式に集団食中毒事件の当事者(被害者)になります。
 これは、決して、診定された患者・国民にとって、何ら意味のないことではありません。
 しかし、控訴審判決は、「診定」とは「医師が臨床的に病名を食中毒と診断する臨床診断それ自体を指す」「当該食中毒患者等を患者として認定するものではなく」「当該食中毒患者らに何らの権利や法的地位が付与されるとも、行政行為が国民に直接法的な影響を与えるとも解することはできない」と判示しました。
 また、調査もせず必要なデータも集めないことについても「食中毒事件におけるデータの採集及び集約が患者にとって重要な意義を有しているとしても、食品衛生法上、食中毒調査において患者について法的権利性を付与していると解すべき法令上の根拠は見いだせない」として、食中毒対策に必要なデータを集めるための調査を要求する権利を認めませんでした。
 そして「水俣病食中毒事件について、被控訴人らが法定の調査をし、事件の実態、食中毒患者の実態を明らかにすることと、控訴人が水俣病患者として救済されることとは別問題」と述べ、食中毒調査がされず、何の医学的根拠もない違法な認定基準によって不当に切り捨てられている佐藤英樹さんの実情について、全く顧みようとしていません。
 根拠となるデータも集めず、不当・不適切な施策が続けられるのを、食中毒患者はただ黙って見ているしかない、と言うのでしょうか。

 佐藤訴訟東京高裁判決は全く納得できない内容でしたが、私たちは上告はせず続く津田訴訟に全力を集中する選択をしました。

○2016年12月7日 津田訴訟 東京地裁判決 地裁判決文(pdf)

 東京地裁(古田孝夫裁判長、大竹敬人裁判官、大畠崇史裁判官)は、食衛法に基づく食中毒住民調査を求める訴えを退け、国や熊本県・鹿児島県の60年以上にわたる水俣病の違法な放置を継続させる判決を、言い渡しました。

<国民の命と安全を守らない法解釈>

1.調査の処分性について
 食衛法に基づく住民調査について、東京地裁は「食中毒の原因となった食品等及び原因物質を追及し、当該食品等の微生物学的又は理化学的等の観点からの特性等を把握するために行われるものであって、それ自体が直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものでない」と判示しました。
 また、保健所長から県知事、そして厚生労働大臣への報告義務については「いずれも行政機関相互の行為であり、それ自体が直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものであることをうかがわせる法令上の定めは見当たらない」と判示しました。
 従って、食中毒調査と報告には「処分性(国民の権利義務を決定)」がなく、国民には調査をするよう義務付ける訴訟を起こすことができない、と原告の訴えを退けました。
 しかし、水俣病のように大規模な環境汚染を介した、人類が初めて経験する食中毒事件では、その実態調査を行い、病像や被害範囲を正しく把握しなければ、適切な対応策を設計することはできません。また、それが行政区画をこえるような場合には、国がそれを把握し対策を立てなければ、大規模な食中毒事件の発生・拡大を抑えることはできません。
 食衛法の住民調査は、行政がその施策するための第一歩であり、これがなければ、その後の対応も間違ったものになり、地域住民はいつまでもその危険に曝され続けることになります。水俣病がその代表例ではありませんか。
 食衛法の住民調査は、私たちの命と健康の問題に直結しています。

2.違法確認の利益について
 判決では、調査や報告が「(食中毒患者)の届出をした医者個人(原告)の何らかの個別的利益を保護すべきものする趣旨を含むものと解するのは困難である」「(調査・報告がなされないことによって)何らかの権利若しくは法律的地位を有すること又はこれらを侵害されることをうかがわせるその他の法令上の根拠も見当たらない」ので、違法確認の利益がなく、これも原告には提訴する権利はないと、訴えを却下しました。

3.原告の受ける損害について
 そして、そもそも原告には食中毒調査・報告によって守られる権利がないのだから、その不作為による損害も存在しないと判じました。

 これらの条文解釈は、直接の被害患者である佐藤英樹さんが原告となった訴訟(2016/01/27東京地裁判決、2016/09/21東京高裁判決)でも、全く同じものでした。
 これでは、行政がなすべきことをいくらサボり続けても、それがたとえ法に明記されていても、誰もそれを正せないことになります。

2017年7月12日 津田訴訟 東京高裁判決 高裁判決文(pdf)

 東京高裁第5民事部(永野厚郎裁判長、三浦隆志裁判官、筈井卓矢裁判官)は、東京地裁に続き、私たちの訴えを退ける判決を言い渡しました。
 判決理由が読み上げられた直後、津田医師が「あなた方は、水俣病事件混乱の責任を負っているのだ」と諫めましたが、裁判官たちは津田医師とは目も合わせず、そそくさと法廷を出て行ってしまいました。

<控訴審判決の概要>

1.調査の義務付けについて
 高裁判決は、食衛法に基づく調査・報告について、それは「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する性質を有するものにはあたらず」「行政処分」には当たらないとしました。
 よって個々の国民が、調査の義務付けを提訴することはできない、と判示して訴えを却下(門前払い)しました。

2.違法確認について
 この訴訟では、60年以上も法律違反が続いているという事実を確認する訴えをしていました。
 違法確認の訴えをするためには、その法律違反によって訴えた人の権利が侵害されていること、違法確認をしなければその権利侵害が解消されないこと、という条件(即時確定の利益)が必要だそうです。
 しかし、食衛法には食中毒患者の届出をした医師(津田医師)に対して、住民調査に関して何らかの権利や法的位置を与える条文はないので、津田医師には訴えの利益がないとして、東京高裁は、これも却下しました。

3.国家賠償について
 東京高裁は、そもそも食衛法の調査に関して、届出医師は何の権利も法的位置もないので、当該行政庁は届出医師との間で負うべき法的義務はないと判示し、よって国家賠償請求の理由はないとして、国家賠償の訴えを棄却しました。

4.司法も水俣病事件に責任を負うことについて
 2004年のチッソ水俣病関西訴訟最高裁判決で、チッソはもとより、国家・熊本県も水俣病加害者として断罪され、判決は確定しました。
 私たちは、司法も国の一機関であり、また水俣病事件に関して、実際に司法が過去に被害者には寄り添わず国や熊本県を擁護してきた歴史を指摘して、裁判所(東京高裁も含めて)もチッソ・国と「共同義務者」であり水俣病事件に責任を負っていること、本件訴訟を審理する資格がないと主張をしてきました。
 これに対して、高裁判決は、東京地裁の裁判官は国と「共同義務者」の関係にない、とのみ判示しただけで、私たちの主張を退けました。

5.潮谷義子前知事の住民調査計画について
 控訴審では、熊本県でさえ住民調査の必要性を理解しており、現に前の潮谷知事時代に不知火海沿岸47万人を対象とした調査を立案していたことを指摘しました。
 しかし、高裁判決は、この調査計画は食衛法に基づく調査を意図していたわけではないので、本件とは関係ないと判示しました。
 なお、潮谷前知事が食衛法に基づく調査を実施しなかったのは、単に食衛法の規定を知らなかっただけ、誰も前知事にアドバイスをしなかったことが、津田医師と潮谷前知事との会談で明らかになっています。

6.調査結果が直接国民の権利に結びつくことについて
 水俣病の認定基準は、今だに科学的・医学的な根拠をもった基準がなく、環境省の恣意的な基準による患者切り捨てが続いています。
 控訴審で私たちは、科学的・医学的な根拠がないのは、適切な食中毒調査が為されていないためであり、食衛法に基づく食中毒調査の結果を活用することによって水俣病の適切な基準を確立することは、国民の権利義務を直接形成する、という主張をしてきました。
 高裁判決は、食衛法の調査は「行政の適正な運営方針の基礎資料を得るため」のものであり「それ自体が直接国民の権利義務を形成する性質ものではない」と判示しました。
 しかし、水俣病事件は「行政の適正な運営方針の基礎資料」を得ていないから、その行政の対応が混乱し、今だに多くの被害者が苦しんでいるのです。
 高裁判決には、現実の世界で起きている事実に向きあい、これを改善していこうという意志が、全く感じられません。

7.水銀条約との関係
 水銀条約16条1項Cにおいて、締約国は「水銀又は水銀化合物への曝露によって影響を受ける人々に対する予防、治療及び保護のための適当な保健サービスを促進すること」が奨励されています。
 しかし、東京高裁判決は「原審判決が同条約に違反するとは認められず、控訴人(津田医師側)の主張は失当である」とのみ判示して、具体的に裁判官たちがどのような審理をしたのかについては、全く触れていません。

2017年12月21日 津田訴訟 最高裁 上告棄却 最高裁棄却(pdf)

 最高裁第一小法廷(裁判長 小池裕、裁判官 池上政幸、大谷直人、木澤克之、山口厚)は、私たちの上告を棄却する決定をしました。この決定に、私たちは大きな怒りをもって抗議します。
厚生労働大臣宛 抗議書


*溝口訴訟 最高裁判決のポイント

<最高裁判決文はこちら>

 4月16日の最高裁判決は、1月17日付の県側の受理申立てを決定する段階で、上告理由を総論に関する論点に絞ったため(チエさんの各論は除外した)、総論についてのみ判示しました。その内容は、原判決(福岡高裁判決)の判示を妥当だとするものであり、結論において、県側の上告を棄却しました。
 最高裁判決のポイントは、次の3点に整理できると思われます。

<認定制度の基礎概念の定式化・統一化>

 第1に、水俣病認定制度の基礎概念(基本となる考え方)について定式化し、統一的な解釈を示したことです。
 判決はまず、救済法上の水俣病とは、「魚介類に蓄積されたメチル水銀を経口摂取することにより起こる神経系疾患をいう」「水俣病は客観的事象」と定義します。あわせて、県側が、「メチル水銀がなければそれにかかることはないものとして他の疾病と鑑別診断することができる病像を有する疾病」と主張したのに対し、判決は、そのように狭い意味に解釈すべきではないと批判しました。
 判決の定義は常識に沿い、また、「客観的事象」という判示の意味は、水俣病とは客観的に認識できる1つの事実であることを明確にしたとみるべきでしょう。
 次に、判決は、認定審査の対象は、「水俣病罹患の有無という客観的事実」であり、この水俣病罹患の有無とは、「申請者が有する個々の症候と原因物質(メチル水銀)との間に因果関係が有るか無いかである」とします。県側が、認定審査の対象(=認定要件)は、「もっぱら水俣病にかかっていると医学的に診断できるか否かである」と主張したのに対し、判決は、そのように狭い意味に解釈すべきではないと排斥しました。
 つまり、水俣病罹患の有無は客観的事実ですから、その事実を認定するに際し、医学的診断は1つの要素・材料にすぎないことになります。
 したがって、判決は、水俣病の認定(=水俣病罹患の有無という客観的事実の確認)に当たり、個々の申請者の「病状等についての医学的判断」のみならず、「曝露歴や生活歴および疫学的知見や調査結果等」を十分考慮した上で、総合的、多角的見地からの検討が必要である、と判示しました。
 この認定のあり方につき、原判決(福岡高裁)は、「『水俣病にかかっている』か否かということは、医学的な判断対象ではなく、社会的事実であって、医学的研究の成果に応じた医学的知見を踏まえ、救済法の趣旨、目的に照らして判断することが求められている」と、最高裁判決と同旨の判示をしています。
 さらに、上告審での主要な争点である「行政庁の判断に関する裁判所の審査のあり方」について、判決は、県側の「認定審査会の調査審議・判断に過誤・欠落があるか否かという観点から行なわれるべき」という主張をしりぞけ、「個々の症候と原因物質との因果関係の有無を対象とし、申請者の水俣病罹患の有無を判断すべき」という手法を採用しました。
 つまり、裁判所は、行政の裁量を認めて消極的な審査をするのではなく、積極的に実体判断に踏み込むべきだという審査のあり方を明示しました。

<認定制度という建物全体を建て直すべき>

 以上の論点は、いずれも認定制度の根本にかかわるものであり、最高裁が初めて統一的な解釈を示した意義は極めて重要です。と同時に、最高裁は、これらの論点に関する県側の理解が誤っていると厳しく批判したわけですから、認定制度という建物の土台が誤っている、当然その上に建てられた認定基準も間違いだということになります。
 要するに、最高裁は、行政に対し、認定制度という建物全体を、判決の趣旨に従い改めて建て直すよう強く求めているのです。最高裁判決を分析するに当たり、この最高裁の断固たる意思を前提にしなければなりません。

<四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病>

 第2のポイントは、判決が「四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病」の存在を認めたことです。
 判決は、一般論として、四肢の感覚障害のみの水俣病が存在しないという「科学的な実証はない」と判断し、また、四肢の感覚障害のみしか確認できないチエさんを水俣病と認定することができるとした原判決を維持しています。

<52年判断条件に対する評価>

 第3は、法律的にはもとより、社会的に最も注目を集めた52年判断条件に対する評価です。
 判決は、52年判断条件につき、まず、症候の組合せが認められる場合に認定するとしているのは、多くの申請に対し迅速に判断する基準だという意味で、その限度での合理性を有すること、しかし他方で、症候の組合せが認められない場合も、総合的に検討した上で、個々の症候と原因物質との間に因果関係があるかないかという個別具体的な判断により、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえないことを判示しました。
 判決の趣旨は、症候の組合せによる認定は、「迅速な救済」という限度で合理的だが、他方、「幅広い救済」という観点からは、症候の組合せに該当しない場合(その典型例が四肢の感覚障害のみの場合です)に、因果関係に関する個別具体的な判断が必要不可欠だとするもので、両者の認定手法が相まって52年判断条件を構成するものと理解すべきでしょう。
 そうだとすれば、判決は、52年判断条件の内容および運用の両者につき、注文を付けていることになります。
 まず、内容に関し、52年判断条件は、症候の組合せが認められない場合に、総合的な検討を行うべきであることや、総合的な検討のあり方を全く規定していません。四肢の感覚障害のみの水俣病が存在することにも言及していません。ですから、こうした内容を盛り込んだ新しい認定基準を策定するよう求めているのです。
 さらに、運用に関しては、原判決が「症候の組合せに該当するときには水俣病と認定するものの、該当しないときには、個別具体的な事情を総合考慮することなく棄却していた」「52年判断条件を硬直的に適用した結果、重症者のみを認定し、軽症者を除外している」旨判示するとおり、最高裁判決が示した運用のあり方に反する実態であるのは明らかです。最高裁は、ただちに52年判断条件の運用をあらためるよう求めているのです。

<判断条件を違法と断言しない問題>

 ただし、残念ながら判決は、52年判断条件が違法・無効であるから撤廃すべきだと言い切ることはしませんでした。
 判決は、四肢の感覚障害のみの水俣病の存在を認めた以上、四肢の感覚障害は「水俣病における最も基礎的、中核的な症候」(原判決)であり、現在の大多数の患者に見られる典型的な症候であるのは証明されているのですから、「法の趣旨に適合する認定基準として、四肢の感覚障害のみで十分であり、症候の組合せを要件にしてはならない。したがって、症候の組合せを求める52年判断条件は違法・無効である。」と結論づけるべきでした。判決の論理を推し進めると、これが必然的な結論です。
 しかし、行政の立場を尊重する判断が働いたのでしょう、そこまで断言しませんでした。別稿で指摘する通り、この不徹底さが、環境省をして、「判決は52年判断条件を否定していない」といわしめる口実を与えてしまっています。
 この点は、最高裁判決のもつ最大の問題点だといわなければなりません。

*この事件のあらまし

 1995年8月、熊本県知事はチッソ(株)が垂れ流したメチル水銀の曝露歴は認めながら「公的資料がない」という理由で溝口チエさんの水俣病認定申請を棄却しました。1974年の申請以来、実に21年後の処分でした。チエさんは申請から3年後の1977年に死亡しましたが、この間に県は終えているべき検診を完了させませんでした。申請者が検診未了で死亡した場合には、環境省が金科玉条とする“1977年(S52)判断条件”でも、生前に受診していた医療機関のカルテ収集を明記しています。
 しかしチエさんの次男・秋生さんの起こした行政不服審査請求によって、県の病院調査は死亡後17年も経ってからであったことが判明しました。また地元支援者の調査で、少なくとも県が病院調査を始めた当時はまだカルテが残されていた可能性があったことが分かりました。
 県がまともに調査をしていればチエさんの水俣病罹患は証明できたのです。
 さらに、裁判で県の提出した証拠から、1988年11月には、未検診の死亡者について「病院調査についても、積極的に行うことはしない」と旧環境庁と合意していたこと。その結果カルテが廃棄されてしまうことを十分認識していた(環境庁側の協議資料には「病院調査は適宜やっておく必要がある−カルテ保存期間」と明記されていました)ことが判明しました。チエさんを含む未検診死亡者は意図的に放置されていたのです。
 秋生さんもただ21年間じっと待っていたわけではありません。毎年チエさんの命日に合わせて、県に「母の件はどうなっているのか」と問い合わせを続けてきたのです。
 これに対し県は、上記のように病院調査の棚上げをしていたのを隠して、問合せには「検討中」と答えるのみで、放置を続けていたのです。

*棄却取消・義務付け訴訟

 2001年10月に環境省の行政不服審査請求も棄却されたため、秋生さんは同年12月に熊本県を相手取り、棄却処分の取消を求める行政訴訟(棄却取消訴訟)を提訴しました。
 そして、2005年10月には加えて義務付け訴訟を提訴しました。これは認定棄却した処分を取り消すだけではなく、積極的にチエさんを水俣病と認めるよう熊本県に義務付けるものです。

*熊本地裁判決

 2008年1月25日に熊本地裁(裁判長・亀川清長、裁判官・内山真理子、中島真希子)で言い渡された判決は、唯一の医学証拠であるS診断書を不十分としたうえで、そうなってしまった原因については「やむを得ない」と熊本県の責任を不問にしました。
 前述の証拠(病院調査はしないと決めていた)があるにもかかわらず、「意図的に病院調査を放置したと認めることはできず」とするなど、提出された証拠もちゃんと見ない一方的なものでした。

*福岡高裁

 2008年2月6日に控訴した福岡高裁では、チエさんは水俣病であったか否か、という争点が中心となり、双方から医学証人が立ち、審理が続いていました。
 2012年2月27日、福岡高裁(裁判長・西謙二、裁判官・足立正佳、裁判官・石山仁朗)は、チエさんを水俣病と認め、熊本県に公健法(チエさんが申請をしていた時には救済法)の認定患者として認定するよう義務付けました。

*福岡高裁判決のポイント

<福岡高裁判決要旨はこちら> <福岡高裁判決文はこちら>

1.公健法の認定基準としてS52年(1977)判断条件を否定

 公健法の認定基準のあり方として「その(症状:編者注)原因がメチル水銀のばく露によるものであるとの蓋然性がそうでない場合を上回ることで足りるとされている救済法の下では、認定申請者のメチル水銀に対する曝露状況等の疫学的条件に係る個別具体的事情等を総合的に考慮することにより、水俣病にかかっているものと認める余地がある」と述べ、そして「そうであれば、52年判断条件は、認定手続における認定判断の基準ないし条件としては、十分であるとはいい難い」「52年判断条件の基準を満たさない場合に水俣病とは認められないとする解釈が、これに適合しないことは明かである」とS52年判断条件が公健法の認定基準として不適切であると結論づけました。
 さらにS52年判断条件の成立過程や1985年医学専門家会議の内容、また認定作業の実態を検討した結果、「52年判断条件が、メチル水銀の経口摂取により末梢神経の障害を来すものと理解されて運用されたことなどにより、中枢神経障害説により認定されるべき申請者が除外されていた可能性は否定できず」「そうすると、上記のような認定手続の運用は、52年判断条件の運用として、適切でなかったというほかない」つまり、S52年判断条件を適用することによって、水俣病患者と認定されるべき人々が切り捨てられてきたことを指摘しました。
 国と熊本県は、直ちに過去に認定棄却した申請者の再調査をして、中枢神経障害に基づいた審査を始めなければなりません。

3.症状を捉える根拠として、民間医師の診断書を採用

 そして、チエさんに四肢末端優位の感覚障害が認められる証拠として、地元開業医のS医師の診断書を採用しました。熊本県はS医師が神経内科の専門医ではないことを挙げ、その診断書は信用できないと主張してきました。
 しかし判決は、S医師が1959年の水俣保健所勤務に始まり、水俣病現地で開業し水俣病患者を診てきたこと、「水俣病に関しては、水俣市立病院勤務時における臨床経験、医師会等の勉強会などで知識等を得て」いたこと、診断書作成の時には、様々な検診を行っていたことを認め、「その検査の精度を疑うべき事情は認められない」とS医師診断書の信憑性を認めました。

4.認定患者がいない家族でも、メチル水銀曝露の高濃度汚染を認める

 熊本県は、チエさんの同居家族に水俣病認定患者がいないこと、チエさんの孫の胎毛の毛髪水銀値(16.1ppm)等からは、溝口家が高濃度にメチル水銀に曝露していたとは認められない。あまつさえ溝口家は農家であり、チエさんが老人であったから小食で汚染魚を多食していたとは言えないとまで言いつのっていました。
 また、チッソ水俣病関西訴訟大阪高裁判決では、チエさんのように二点識別覚検査がなされなかった人について、本人のメチル水銀曝露の確実性を高める担保として「家族内に認定患者がいて、四肢末梢優位の感覚障害がある者」との準拠を示していました。
 溝口訴訟高裁判決では、チエさんが住んでいた袋地区内にも認定患者家庭が多く存在していること、チエさんと食生活を共にしていた原告やチエさんの孫(いずれも1995年の政治決着による医療手帳)に水俣病の疑いがあること、などを挙げ、家族内に認定患者がいない場合でも、様々な情報を総合的に判断すればメチル水銀の高濃度汚染が認められることを判示しました。

5.発症時期は本人でも分からない

 チエさんに限らず、申請者は症状がひどくならないとそれが自覚できず、認定申請時期が遅れ、発症時期の記憶が曖昧になる場合が多くあります。国・熊本県はここにつけ込み、チッソによる水俣湾へのメチル水銀垂れ流しが止まってから時間が経ってから発症したことになり、これはおかしいと主張してきました。
 これに対して高裁判決では「メチル水銀のばく露と症状の発生の関係は明かではなく、発症の時期とそれが判明しあるいは診断される時期とが一致するわけではない」「慢性の症状に分類されるものであり、本人が自覚しにくい」「それらの時期に関する認識が正確なものかも定かでない場合がある」と判示しました。水俣病に関する正しい情報が得られず、なかなか認定申請ができない患者の実情を正しく理解した内容と言えます。
 また、この判示は、国や当該の各自治体が、積極的にメチル水銀に曝露していた住民の悉皆調査をしなければ、本人が気づいていない潜在患者がそのまま埋もれてしまうこと、本人申請主義の認定制度の欠点を指摘しているとも言えます。

*溝口棄却取消訴訟弁護団東京事務局
  東京:山口紀洋(弁護士) 荒谷徹 鎌田学 鈴村多賀志 平郡真也
  水俣:高倉史朗
*連絡先(東京事務局)
 〒337-0033 埼玉県さいたま市見沼区御蔵 1247-8 鈴村方  Faxのみ 048-683-7098

*支援カンパ先 郵便振替:「水俣病行政訴訟事務局」 00130-9-482335

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